四 『山下水』の構成

 最後に、『山下水』の内容の検討として、所収された四十七首の和歌の出典を示し、構成上の特徴を考察する。左表の構成欄には、構成上のまとまりを表す語句を私に適宜記した。
 
『山下水』の示す作者名出 典構 成
1 男神日本書紀巻第一和歌の始め
2 女神日本書紀巻第一和歌の始め
3 したてる媛日本書紀巻第二和歌の始め
4 また(したてる媛)日本書紀巻第二和歌の始め
5 すさのをのみこと古今仮名序和歌の始め
6 王仁古今仮名序歌の父母・六義
7 うねめ古今仮名序歌の父母
8 ―古今仮名序六義
9 ―古今仮名序六義
10 ―古今仮名序六義
11 ―古今仮名序六義
12 ―古今仮名序六義
13 ならのみかと古今仮名序和歌普及の始め
14 柿本人丸古今仮名序二聖
15 山邊赤人古今仮名序二聖
16 僧正遍昭古今仮名序六歌仙
17 在原業平古今仮名序六歌仙
18 文屋康秀古今・春上・八六歌仙
19 喜撰法師古今仮名序(雑下・九八三)六歌仙
20 小野小町古今仮名序六歌仙
21 そとおり媛古今仮名序小町の流れ
22 大伴黒主古今仮名序六歌仙
23 紀友則古今・春上・一三古今集撰者
24 貫之古今・離別・四〇四古今集撰者
25 みつね古今・春上・四一古今集撰者
26 忠峯古今・恋三・六二五古今集撰者
27 元方古今・春上・一巻頭歌
28 つらゆき古今・春上・二巻頭歌
29 よみひとしらす古今・春上・二九三鳥
30 (よみひとしらす)古今・秋上・二〇八三鳥
31 業平朝臣古今・羈旅・四一一三鳥
32 紀のとものり古今・物名・四三一三木
33 ふかやふ古今・物名・四四九三木
34 としはる古今・物名・四五〇三木
35 讀ひとしらす古今・恋一・四六九序詞・掛詞
36 (讀ひとしらす)古今・恋一・五四四序詞・掛詞
37 (讀ひとしらす)古今・恋三・六三四序詞・掛詞
38 (讀ひとしらす)古今・恋五・八二八序詞・掛詞
39 よみひとしらす古今・雑下・九八一〈連続〉
40 (よみひとしらす)古今・雑下・九八二〈連続〉
41 (よみひとしらす)古今・雑下・九八四〈連続〉
42 良峯宗貞古今・雑下・九八五〈連続〉
43 二条古今・雑下・九八六〈連続〉
44 よみ人しらす古今・雑下・九八七〈連続〉
45 (よみ人しらす)古今・雑下・九八八〈連続〉
46 (よみ人しらす)古今・雑下・九八九〈連続〉
47 藤原敏行朝臣古今・東歌・一一〇〇巻末歌

 
 全体的には、表中に破線で示したように、前半・後半の二部構成になっている。冒頭には、跋文に「神歌に始て」とあるごとく『日本書紀』にみえる伊奘諾尊・伊奘冉尊の歌が置かれる。但し「男神」「女神」とその後の「したてる媛」は、歌は示されないものの『古今和歌集』仮名序にその名がみえている。4番歌以降は仮名序にしたがって六義の歌などが配され、やはり跋文にいう「二聖六哥仙」の歌まで続く。その後は『古今和歌集』撰者の歌が配されている。
 続く後半部分には、27・28番歌の『古今和歌集』巻頭歌と、47番歌の巻末歌にはさまれる形で、三群のまとまりが指摘できる。①29~31番歌・32~34番歌は、古今伝授の主要項目の一つである三鳥・三木の歌。②35~38番歌は、序詞・掛詞の例として挙げられたと思われる。(7)38番歌直後に「喜せん法師我いほはの哥は前に見えたり」とするのは19番歌「しかそすむ」の部分の掛詞を例として挙げる意図を示すのであろう。③39~46番歌は、『古今和歌集』・雑下に連続して所収される歌である。40番歌と41番歌の間の不連続は、古今・雑下・九八三の喜撰法師歌が既に19番歌として挙げられているため、省略されたものと思われる。但し、①②群と比較して、この③群を撰んだ意図は明確ではない。
 このように『山下水』前半は、ほぼ『古今和歌集』仮名序に基づき、和歌の始めや六義を示す歌、代表的歌人の歌で構成される。後半は、巻頭・巻末歌を配して『古今和歌集』全体を視野に入れつつ、解釈上留意すべき歌群で構成しているようである。