近世日本の都市図・名所図・道中図
江戸時代には、都市の街並みや名所旧跡、街道や巡礼路を描いた多様な絵図が制作されました。これらは地理情報を示すだけでなく、人々の旅や参詣、遊覧を支える案内資料として広く利用され、当時の都市景観や交通の様子を今に伝えています。
都市図
街路や町割、寺社などを描き、都市の姿を示した絵図です。
大阪図
天保3(1832)年に大阪の書肆・播磨屋九兵衛が刊行した多色刷の大阪市街図です。もとは寛政9(1797)年に刊行されたもので、本図はその補刻版にあたります。大坂城を中心に、市中の町割や主要街路、河川・橋梁、寺社などが詳細に描かれており、近世後期の大阪の都市構造を視覚的に把握することができます。折り畳み式で携帯に便利な形式を採用しており、商業都市として繁栄した大阪を訪れる人々の案内図としても利用されたと考えられます。
名所図
名所旧跡や寺社を描いた絵図で、遊覧や参詣の案内として親しまれました。
京洛名所絵巻
江戸中期頃に制作されたと考えられる京都名所図絵巻です。三十三間堂(蓮華王院)の通し矢、方広寺大仏殿、清水寺、八坂塔、祇園社など、京都を代表する名所が極彩色の細密画で描かれています。寺社の景観だけでなく、参詣する人々や門前町のにぎわいも生き生きと表現されており、近世京都の都市文化と名所観光の様相を今に伝える作品です。
浪花繁榮見物獨案内
弘化2(1845)年に刊行された大坂の案内地図です。大坂市中の町割りや名所、芝居小屋、商店などが詳しく描かれています。作者の暁鐘成は、大坂の名所や風俗を紹介する著作で知られる戯作者・地誌家です。図中には、紙面の都合で掲載できなかった茶店や酒亭、小見世物については別書『繁栄記』で紹介すると記されており、当時の大坂の繁栄ぶりをうかがわせます。
道中・巡礼図
街道や巡礼路を描き、旅や参詣の案内として利用された絵図です。
西國札所細見図
西国三十三所観音霊場の札所や巡礼路を示した案内図です。江戸時代には西国巡礼が広く普及し、巡礼者のために携帯用の地図や案内記が数多く刊行されました。本図は元文4(1739)年に書写されたもので、当時の巡礼の実態や交通路を知ることができる資料です。
武蔵江都ヨリ肥前長崎迄道中絵図
近世日本の政権都市・江戸から対外交易の窓口として栄えた長崎までの街道筋を広範囲に描いた資料です。陸路だけでなく海路や各地の港町・島々の景観も詳細に収録されており、近世の交通・地域史研究を考えるうえで貴重な史料です。