祈りのベンガラ

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環状土籬 縄文人の眠り
恵庭の柏木B遺跡から、縄文時代後期の共同墓地の遺跡「環状土籬(かんじょうどり)」が四基見つかり注目を集めました。周堤墓ともよばれる「環状土籬」は、北海道独特のもので、大きな円い竪穴を掘り、その周囲に土を堤のように積み上げて作られています。この時代の前に作られていたストーンサークルが変化したものともいわれ、堤は石の代わりとも考えられています。柏木B遺跡の一つひとつの墓には墓標のように石が立てられているものや、副葬品が一緒に埋められていたもの、赤いベンガラがまかれていたものなどがありました。水銀朱やベンガラとよばれる酸化鉄などの赤い色は、縄文人には特別の意昧を持つ色だったようです。墓にまいたベンガラは、赤い血を表し、死者にふたたび血が流れることを祈ったとも考えられています。

 
柏木B 1号環状土籬平面図
柏木B遺跡から発見された環状土籬

ベンガラをまいた墓と石棒(柏木B遺跡)

謎の石棒
柏木B遺跡環状土籬からは、石斧・弓など生前使っていたと思われる道具やアクセサリーなど多くの副葬品が見つかっています。アクセサリーの多くが男性と思われる墓から見つかっていることから、当時の北海道は「男性上位」の社会だったのではないかという説もあります。副葬品として発見されたもののなかに、多数の「石棒」がありました。石棒は粘板岩などを棒状に加工し、両端か一端にコブ状のふくらみがついています。これも謎の道具で、男性のシンボルから生まれたものと考えられています。おそらく権威の象徴として使われたり、祈りやおまじないなど呪術的・儀礼的に使われたのでしょう。

 
石棒と石棒の頭部(柏木B遺跡)

柏木B遺跡発掘の様子

祈りと呪術の風景
このような縄文人の「心の文化」を示すものに、土偶や石偶もあります。土偶は初めから壊されるために作られ、人々の病気や災難の身代わりとして使われたと考えられています。土偶のほとんどが女性像であることから、出産と豊穣を結びつけた女神信仰だとする説もあります。動物型土製品の一部ではないかと思われる土器やスタンプ状土製品など、用途がよくわからない不思議な道具も発見されました。動物型土製品は、香炉のように使われたか、呪術用の祭器ではないかといわれています。またスタンプ型土製品そのものは、男性と女性のシンボルが合体したもので、お守りとして身につけていたのではないかという説もあります。いずれにせよこれらは、人々がただ実用性だけで生きているのではなく、豊かな心の文化がこの時代に存在していたことを、私たちに教えてくれるのです。

 
土偶(柏木B遺跡)
石偶(中島松5遺跡)

スタンプ状土製品
(ユカンボシE3遺跡)
動物型土製品(柏木B遺跡)

◆環状列石・環状土籬などの主要遺跡