解題・説明
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安政2年(1855)南部藩は幕府より、箱館から幌別にかけての沿岸警護を命じられた。箱館に本拠となる陣屋が置かれ、森町砂原、長万部、室蘭に出先の陣屋が築かれた。本作品は南部藩が警護した地域の景観と、そこに住む人々の風俗を描いたものである。箱書に「南部藩士長沢盛至真模写」とある。長沢盛至は文作ともいい、安政2年に南部藩が警護する蝦夷地の測量を命じられた。それまで測量を学んだことがない長沢にとってはじめての経験であったが、『東蝦夷地海岸図台帳』を苦労の末まとめ上げている。本作にも有珠山と洞爺湖、室蘭の陣屋近辺から絵鞆方面などを見る図などの風景も描かれている。本作において印象的な場面は、アイヌと和人との生活の関わりを描いた場面である。石場斎宮(箱館奉行支配調役)の下女とアイヌの人々が餅つきを行うところがあり、番人とされる三味線を弾く男は、アイヌの衣装を着ているが、髷を結い、口髭を落として襟を右に合わせている。これはアイヌに対する同化政策による和人化を意味しているのかもしれない。また、アイヌの人が担ぐ駕籠に前田昌三郎(南部藩調役下役)妻女が乗る場面も描かれている。
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