解題・説明
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この絵巻は三巻からなる。一つは箱館の図を中心にクジラ漁、鷹雛を獲る図。もう一つは十勝、釧路、根室の風景を描いたもの。残る一巻は宗谷、樺太、高島(小樽)、余市、恵山、河汲(箱館)の風景が描かれる。したがって箱館から十勝、釧路、根室を経て宗谷から樺太に渡り、小樽、余市を経て箱館に至る景観を描いたものであることが分かる。宗谷、樺太の景を描いた巻は、他の水墨淡彩の二巻よりサイズは小さく、水墨のみによる描写である。この内容と同様の作品が『東蝦夷地巡検絵巻』として国立公文書館内閣文庫に所蔵されている。『東蝦夷地巡検絵巻』は、安政5年(1859)の村垣範正らの蝦夷視察の際に描かれたものである。本作は岐阜県中津川市菅沼雄三氏より昭和31年に寄贈された。その蓋裏に自身の書付がある。それによれば、安政年間(1854-60)幕府の蝦夷地開拓のための産業奨励政策をうけて、美濃の岩村藩から足立岩次ら数名が製陶業を興すべく箱館に渡った。北海道では陶土の採取が難しく、樺太方面まで探してみたが見つからず、東濃から材料を取り寄せたものの経費がかさみ、経営が立ち行かなくなったと述べられている。しかし実際のところ箱館焼の製造は、箱館奉行所が岩次らに依頼したものであるとの説がある。箱館近辺から陶土は調達されており、食器類を生産していた。この箱書は箱館焼の創始に関わる内容が述べられているが、事実に即していない記述もみられる。したがってこの箱書は、本作に附されたものであるかは一考を要する。
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