解題・説明
|
本作には、山東雲なる人物の文化6年(1809)6月の序文がある。そこには、秦檍麿の『蝦夷島奇観』を模してその一覧のあらましを小巻に記して『唐太島奇覧』したとある。秦檍麿は村上島之允といい、伊勢の社家の出身で国学に通じた人であった。『蝦夷島奇観』は秦檍麿がアイヌの人々の行事・風習・生活などを博物学的見地に立って著したアイヌ民族誌である。山東雲が模した本作品には東京国立博物館蔵の『蝦夷島奇観』には収録されていない場面も多い。たとえば冒頭の「唐太着船之図」、「カラフト嶋夷人之図」のような樺太風俗を描いたもの、「ヲムシャ拝禮之式図」のような蝦夷地のアイヌを描いたものや松前の町並み風俗などがそれにあたる。山東雲の画風は稚拙ではあるが、東博本には見られない場面がある点は貴重である。なお学習院大学史料館が所蔵する『唐太島民俗絵巻』には秦憶丸画、山東雲模写の識語があり、本作品とも共通する点が多く見られる。山東雲なる人物については不明である。
|