調理用の道具のほかに、手工芸用の道具もあった。石器は用途によって形を変えたが、衣服などに用いる皮を継ぎ合わせる道具も必要であった。皮袋などの種類によって、厚い丈夫な皮は石の刺器、薄い皮は骨角製の刺器を用いて穴をあけ、皮紐(ひも)や植物繊維を撚った糸でつづって継ぎ合わせた。皮紐は北方民族が行っているように、生皮を細く切って作る。すなわち丸剥ぎにした動物の皮を、りんごの皮をむくように細くらせん状に切って1本の長い紐を得、これを引張って陰乾しにして作った。糸には動物の腱(けん)も用いられた。刺器のほかに皮細工用の骨製の縫針も遺跡から出土する。太目の針は長さ約20センチメートル、細目のものは長さ約7センチメートル、いずれも太さ3ミリメートルほどで頭部に穴があいている。これらの骨針の存在から、毛皮の防寒服や皮靴と携帯用の皮袋なども作られていたことが考えられる。
鯨骨製の包丁や骨製の箆(へら)もある。用途も明らかでなく、何に使用したか不明なものもある。その一つに土器の破片を円盤状に作り、中心に穴をあけた土器片製有穴円盤がある。これによく似たもので、弥生時代の紡錘車というものがあるが、土器片製円盤は糸紡ぎに用いたかどうかは分らない。中心の穴は石製の錐であけているが、石錐は土器の補修にも用いられた。1個の土器を完成させるまでの手数と苦労を考えて、ひび割れ程度で使用に堪える土器は補修している。亀裂の入った箇所の両側に石錐で小穴をあけ、糸で結んで割れ目を粘土で補修している。軽石製の特異な擦り石も発見される。用途不明であるが、大形土器の内面を磨いたり、皮なめしに用いたものかも知れない。