漁労用具の釣針や銛先は鹿の骨や角で作られている。釣針は鹿の骨を割ってU字形に作り、大きなものは9センチメートルほどもある。体部が厚く、糸を結び付けるための作り出しがあるが、出土例の多くは針先が欠損している。まぐろなどの大形魚を釣るのに用いたものであろう。釣りには、えさを用いたかどうか、宮城県での実験例があるが、角や骨の新しいものは海中で光を放ち、擬似餌(え)となるため特別にえさを付けなくても釣りができる。撒(ま)き餌で魚を集めると餌を付けなくとも釣れるが、岩に付着している貝などをつぶして撒き餌とする方法が採られていたかも知れない。銛は鹿角製で、角の先を擦り切りによって縦割りにしたものから造る。あげのある銛先とあげのないものがある。これらは回転式銛頭で、骨製の柄に糸でからげて使用する。この銛頭には装飾的な刻線文が付いていて、獲物に撃ち込んだ銛の所有者がわかるようになっている。このほか骨製で両端を鋭くした銛頭に似ているが中央にくびれのある骨器がある。くびれの部分に糸を結び付け、いわゆるひかりものの魚を餌に付けて釣る一種の釣針である。魚はこの針についた餌に食い付くと両端の鋭い先が突き刺さって釣り上げられる。
骨や角は弾力性があって強靭(じん)であり、加工も硬質の石片や砂岩の研磨器で容易に作られる。漁労用具の付属品に浮袋の口がある。これは鹿角製で管状で短く中空になっていて、外側に浮袋を固定するためのくびれがある。この浮袋は銛の柄に取付けたもので、獲物に打込んだ銛が沈まず、また次の目標にもなる。これは北方海洋民族の銛に似ており、土俗品の浮袋は海獣の腸に空気を入れて乾燥させ、一端を結び、他の一端に骨製又は木製の栓(せん)を取り付けて浮袋を作っている。そのほか骨の強靭さを利用したものに縫針がある。皮細工などには不可欠のものであった。縫針にも種類があり、長くて目穴のあいたもの、へら状で目穴のあいたもの、湾曲して目穴のあるものなどがある。湾曲した針は何杖かの皮を重ねてかがるのに便利なように工夫されている。骨製品で数多く出土するのはへらである。鹿の大腿(たい)骨や脛(けい)骨を縦割りにして作ったもので、細長く精巧に作られたものから大形で粗雑なものまである。へらは針と違って先端の磨耗がひどい。へらとは言えないが大腿骨の先端部を割ってとがらせただけのものもある。その他では装身具がある。陸棲(せい)獣や海獣の牙(きば)とか犬の脛骨の一端に穴をあけたものなどがある。牙製の大きなものはマッコウクジラで、これは基部に貫通する穴がある。穴のあけ方はほとんどが石錐で片方からでなく両側からあけている。出土状態を見ると牙製品の場合は1個づつ出土するが、犬の脛骨の場合は5本がまとまって出土した。脛骨は同じ大きさのものをそろえて穴をあけているが、それをつなぐと鳴り物にもなる。装身具では鳥骨を切断した管状のものもあるが装飾文のあるものは少ない。戸井貝塚の鹿角製吊鐘(つりがね)形装身具は珍しいもので、高さ12ミリメートルの非常に小さな装身具で頭部に紐通しの穴があり、1ミリメートルほどの点で表面を飾っている。