熊の飾りのある双口土器(小西弥六蔵)
土器の飾りは熊が多く、まれに鹿や海獣もある。熊の意匠はボール形土器、カップ形土器といった恵山式特有の器形に見られる。ボール形土器は半円形の容器で、やや小形であるが体部に文様がある。熊の装飾は頭部を土器の口唇(しん)部に付け、顔は抽象的な表現で土器の内側に向いている。カップ形土器ほコーヒー茶わんのように把手のある土器で、熊が把手の代りに飾り付けられていることもある。これはボール形土器と同じように、土器の内側に顔を向けているが、両手足を広げて土器を抱えるような格好で飾り付けられている。この種類には熊の顔を土器口唇部に付けているものと離しているものがあり、カップ形はボール形より大きい。熊飾りのある土器の中で珍らしいのは、恵山貝塚出土の、小西弥六所蔵のもので、この土器はあたかも皮袋に液体を満たしたように体部が膨らみ、底部が丸味を持って上部には壷形土器の口に似た形の口縁部が2つある双口土器である。この双口には太鼓橋のようなブリッジがあって、小熊と思われる2頭の熊が背を合わせるようにして飾り付けられており、いずれも両手を開いた足に重ねて土器の口をのぞきこむようにしている。
土器に飾り付けられた熊はどれも土器の中をのぞいている。これらの土器は酒などを入れた祭祀用のものであったのであろうか。熊の飾りは青森県田舎館遺跡出土の土器のふたにもあり、十字形文の中央にある突起状の飾りには熊の頭部が付いている。恵山式に流行した熊の飾りと民族の関連を考えると、渡辺仁が研究発表している北方民族にみられる熊祭りの風習とのかかわりも考えられるが、このことは、いまだに完全に解明されてはいない。
恵山貝塚の骨角製品には生産用具、日用品、装飾品などがある。海獣や大形の魚を捕る骨角製の銛(もり)や魚杈(やす)はカムチャツカ、アリューシャンなどのものと類似している。骨製のスプーンや骨角製の刺器に動物の飾りがある。骨製スプーンは茶さじのように幅広で柄に熊、イルカなどの意匠が飾り付けられている。この骨製スプーンは他の遺跡からは出土していないようであるが、熊や海獣の意匠がはっきりと認められる。海獣やイルカ、鯨が狩猟の対象であったことは、出土する銛が北方の海洋民族が使用していた回転式離頭銛と形態が非常によく似ていて、出土量の多いことからも言える。更に回転式離頭銛の補助具である浮袋用の骨角製の栓(せん)が出土しているので、かなり発達した漁労文化であったと考えられる。骨角製の釣針には複合釣針と呼んでいるものが多い。これは針先のアゲの部分と釣糸を結び付ける柄の部分が別々に作られていて、使用の際に基部を接合し、大形の魚を釣るのに用いられた針である。その他の骨角製品では縫針用の細長い骨針や装飾品など種類も多く、骨角器の製作に金属器を使用したと思われるものもある。
恵山貝塚の骨角器(市立函館博物館蔵)