[序]

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 函館市史(全九巻)は、これまで五巻(史料編第一巻〈昭和四十九年三月〉、史料編第二巻〈昭和五十年三月〉、亀田市編〈昭和五十三年十一月〉、通説編第一巻〈昭和五十五年三月〉、統計史料編〈昭和六十二年五月〉)の刊行をみておりますが、このたび開港期・明治期をその内容とする『通説編第二巻』の発刊の運びとなりました。
 幕末、安政期の開港、その余韻のなか、戊辰戦争最後の舞台ともなった函館。往時にあって人びとは、それぞれに生活を営み、築き残した有形、無形の歴史的・文化的遺産は、少なくありません。
 明治期の函館。それは、わが国が近代化へ向けて歩み始めた姿そのものといえましょう。国外に向けていち早く門戸を開いた函館は、人・物の交流によって急速な発展を見ることになりますが、この過程で起った出来事も数多く、これらに立ち向った先達の果敢な行動によって今日の都市基盤は形造られました。
 歴史は、“過去と現在そして未来との尽きない対話”であります。
 本巻が広く市民の皆様に愛読され、郷土の見直しと再発見につながる書となればまことに幸いであります。
 ここに本巻の刊行にあたり、市史編さん審議会各委員の適切なご助言ならびに編集スタッフ各位の長年のご労苦、資料調査員各位の貴重な史料・情報のご提供その他数多くの方々のご協力・ご支援に対し、心から感謝申し上げ発刊のことばといたします。
 
   平成二年十一月三十日
 
          函館市長   木戸浦 隆一
 
 本巻の対象とする時期は、安政二(一八五五)年の箱館開港から日露戦争時までであるが、この時期を扱った通史は、河野常吉著『函館区史』(明治四十四年)以来、本書が最初である。この時期の函館の歴史の特徴をごく要約的に表現すると、箱館開港を大きな契機として、近世の松前三湊(松前・江差・箱館)の一つとしての湊町箱館から、北海道はいうまでもなく東京・横浜を除く関東以北最大の近代都市・港湾商業都市函館へと急激な変容をとげつつあった時期、ということができる。本巻のタイトルともいうべき第四編の編名を「箱館から近代都市函館へ」としたのもそのためである。
 こうした特徴を有する時期であるだけに、記述すべき歴史事象もすこぶる多いが、一冊の史書として編む以上、記しうる内容には自ずから限度があるため、本書は次の点に留意して編んだ。①政治・経済・社会・文化等の諸分野において、この時期の函館の歴史的特性を可能な限り浮き彫りにする。しかし、②右のタテ割りの記述のみでは、この時期の函館の歴史的特性を正確に把握できないので、新たに都市史という視点からの分析も加える。③記述に当たっては、新たな研究成果を積極的に取り入れるとともに、今後の研究のためにも出典(原史料名)を必ず記すなど実証性を重視する。④箱館開港は近代函館の歴史事象に様々な影響を与えているので、開港期の問題は通説編第一巻で扱っているが、本巻でも記述する。
 本書は、記すべくして記しえなかったところも若干あるが、函館の新たな近代史像の一端は描きえたと思っている。最後に史料を提供して下さった多くの方々に心から謝意を表したい。
 
   平成二年十一月三十日
 
           函館市史編集長 榎森 進