運輸会社への払下げ請願が頓挫したため、函館区会が、倉庫に焦点を絞って払下げ問題に取組むことになった。函館区会は、ちょうど最初の第1回通常区会が戸数割税(地方税)乗率規則問題で紛糾し会期が大巾に延長され、7月10日、ようやく閉会式が行われたばかりのところであった。
北海道運輸会社設立が頓挫した8月13日、運輸会社設立会議に参加した区会議員12人中、安浪次郎吉、工藤弥兵衛、米谷権右衛門、石田啓蔵、枚田藤五郎、上田武左衛門の6人が連名で、区内共有金をもって豊川町常備倉の払下げを速かに出願するようにとの建議書を区役所に提出した。この建議書を受理した区役所は、函館支庁に臨時区会の開催を上申、同夜、臨時区会を開催する旨を告示した(「桜庭為四郎文書」、以下特に明記がないものは同史料による)。
同夜開催された臨時区会では原案どおり議決され、翌14日、区長心得桜庭為四郎は議案と議事録を添えて函館支庁へ上申書を提出した。この時議長杉浦嘉七他23人の区会議員は、函館区民総代の肩書で「常備倉御払下願」書を函館支庁へ提出した。この願書には区長心得桜庭為四郎の奥印が付けられていた。函館市民は誕生したばかりの区会の場を活用、議員提案による初の臨時区会の開催にこぎつけ、議会制の手順を踏まえて常備倉の払下げを出願したのである。しかし支庁記録課は、区長心得からの上申書は一時預かりとし、区会議員の請願書の受理を拒否、さらに上申書も明日却下となる旨通知した。桜庭は仕方なくその旨を代表となった安浪次郎吉、工藤弥兵衛、枚田藤五郎、石田啓蔵、米谷権右衛門へ伝えたところ、彼らは却下理由の説明を要求し、時任大書記官との面会を求めた。時任大書記官は「此常備倉ナルモノハ、北海全道ノ為メニ使用セルモノヘ処分セリ、是ヲ啻ニ当区ノミノタメニ使用スルモノトナサントスルハ迚モ及ブベカラザルナリ、併更正ナルベキノ見込アルニ於テハ申聞ラレヨ、果シテ無キトキハ当区人民ノ為メ他ニ裨益スル処ヲ請願アラバ然ルベシ」と却下理由を述べ、函館区のためだけの使用目的で常備倉を払下げることはできないとした。この説明の後、請願者5名は再度口頭で請願したが聞き入れられなかった。区会決議を経た常備倉払下げ運動も実を結ばなかったのである。
なお、支庁記録課は8月15日上申書を返却すると同時に、「区民総代」の肩書調査も行なったようで、桜庭区長心得は「区長総代ト申者、区内各部協議人ノ委任ヲ受ケタルモノニ有之、右協議人ヲ各部ニ置タルハ其部内公共ニ関スル事件ハ総テ協議ノ多数ニ依リ決スル事ニ相成居候、其協議人ヲ撰挙セシハ、本籍寄留共一流ノ戸主ニシテ投票セシモノニ有之候間、此段上申仕候也」と回答している。