年将に暮れんとし市中多事の際我社も既に休刊なしたるも至急報道をせざるの止むを得ざるものあり。兼て当八月以来区内の一大紛紜を生じたる区民山本忠礼氏外七名の方々には昨二十八日当裁判所にて山本忠礼氏は区民総代の名称を冐用し、名を常備倉払下に仮りて官に抗抵したる者と認定され、右科改定律例第九十九条に依り違制重に問擬し、士族なるを以て閏刑に換へ禁獄百日又、井口兵右衛門、工藤弥兵衛、石田啓蔵、杉野源次郎、枚田藤五郎、小野亀治、林宇三郎の七氏は、右同科軽に問擬し懲役九十日の処情を酌量し贖罪金六円七五銭申付られたり、右当区一般に関し緊急の件たるゆへ、不取敢号外にて其略を報道す。口供宣告等の委細は来一月四日の初刷より続々記載すべし。 |
処罰の理由として次の4点をあげ、常備倉払下げ請願を口実に官に抵抗するものとして処罰されたのである。
1、運輸会社および区会議員による払下げ請願が却下になったのを知りながら区会総代の肩書で再度請願したこと。 |
2、請願人に区民総代を委託した協議人には、区全体に関しての権限が認められないこと。 |
3、開拓使の払下げ方針に対し、その不正を追求すると公言したこと。 |
4、警察署および開拓使の命令を拒み、理由書を提出しなかったこと。 |
この判決は、開拓使にとっては官に抵抗する者に対するけじめであり、山本忠礼らにとっては最後まで妥協せず抵抗の姿勢を堅持した者へ与えられる勲章といえるものでもあった。山本は29日入獄した。北海道における改定律最後の判決であった。翌15年1月1日からは新しく刑法と治罪法が施行された。山本は、商業活動への情熱から新聞社社長を下りてハイカラ食料品店「六花堂」の経営を始めていたが、山本の入獄で、その営業は弟の山本和が引き継いだ。
15年4月7日、100日の入獄を終えて出獄した山本忠礼を、100人程の友人知人が出迎えたという。
東京では、黒田長官が払下げ事件に論陣を張った多くの新聞雑誌を告訴した。その概要は表2-57および表2-58の通りである。
表2-57 黒田長官による新聞雑誌社告訴表
年月日 | 種別 | 被告訴側 | 件数 | 告訴等の内容 |
14.10.24 同 同 同 14.10.29 同 同 同 同 14.11.14 同 同 同 | 告訴 告訴 取調 取調 告訴 告訴 告訴 取調 告訴 取調 訊問 訊問 | 郵便報知新開 朝野新聞 東京日日新聞 仮編集長中林潔 朝野新聞 前仮編集長宇津木克巳 東京日日新聞 近事評論 扶桑新誌 東京横浜毎日新聞 旧仮編集長吉岡育 中立正党政談 編集長帰県中で所轄へ回送 東京横浜毎日新聞 旧仮編集長中西伊三郎 朝野新聞 前仮編集長宇津木克巳 郵便報知新聞 仮編集長友部鴻漸 明治日報 記者宗栄次郎 | 凡20 凡10 9 5 6 2 | 14.7以後の社説・雑報 論説・雑録・雑報 14.9.26-27社説「大臣参議の責任を論ず」 14.9.2-3,6論説「伊香保土産」 2915-17,24-25,28,42,52,55号 338,340,343,345-46号 184,187,191,193(2件),194号 14.7.27,8.2-3社説,8.4雑報 「開拓使官有物払下の内実及び由来」 「開拓使官有物払下の利害論」 開拓使事件で吟味(当時禁獄中) 開拓使払下げ事件で新たに告訴 自由党より其筋へ提出の始末書掲載 自由党より其筋へ提出の始末書掲載 |
「朝野新聞」より作成
告訴に関しては黒田長官の代理として開拓使7等属宍戸隼太郎が裁判所へ出頭
表2-58 告訴に対する裁決表
年月日 | 被裁決者名 | 所属新聞雑誌社名 | 裁決内容 | 裁決理由 |
14.12.27 同 14.12.28 同 同 同 同 同 同 同 同 | 星山和介 大久保常吉 中林潔 友部鴻漸 久津見息忠 中西伊三郎 吉岡育 太田清作 山内芳雄 宇津木克巳 宮下平三郎 | 扶桑新誌 江湖新報 日報社 報知社 曙新聞 東京横浜毎日新聞 東京横浜毎日新聞 近事評論 政談社 朝野新聞 朝野新聞 | 禁獄20日、罰金50円 禁獄1月、罰金60円 ※罰金35円 ※罰金55円 ※罰金25円 罰金50円 罰金25円 罰金45円 罰金35円 罰金50円 ※罰金30円 | 内閣大臣参議開拓長官の職務上に関し讒毀 同上及び書記官の職務上に関し讒毀 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 同上 「北海道の事を論ず」2364-5号 「北海道処分上の一巷説を論ず」2378号 「伊香保土産」2391号 「北海道の怪聞」2391号 「我が非を遂ぐる勿れ」2405号 「末広重恭演説大意」2409号 以上の6件に対して 同上及び新聞条例抵触 「開拓使善後の計を望む」2425号 「開拓使処分は如何になりしか」2444号 「一片の哀情」2478号 以上の3件に対して |
「朝野新聞」より作成
裁決内容はすべて讒謗律第4条による。
※印は先に同律により罰金の処断を受けているので「二罪倶発例」により其罪を問われず。