具体的に内澗学校の場合を見てみよう。同校開設時の概算書によると、新設のための一時費640円のみを官から援助してもらい、ほかの(1)教員給料(月給8円、6名を予定)・宿直料(1夜7銭)の年額600円50銭は、町会所予備金利子収入と貸地料収入それに年額200円で5か年間払われる魁文社の寄付金で、(2)小使給料・営繕費・時々の書籍代などその他一切の年費700円は関係小区(1大区4小区と3大区1、2小区)の戸賦金(概算で月額5、60円)と生徒の授業料で賄うとなっている。つまり学校運営の経費は授業料と寄付金それに学区内集金に当たる戸賦金で成り立っていたのである。
これに対し10年1年間の内澗学校出納状況は表10-5のとおりであった。支出の″その他″の内訳は、半紙・墨などの消耗品購入費や教材購入費・修繕費・便所掃除請負料などとなっており、特に1月は開校当初で色々な消耗品買い入れにかかり、6月は新教室増設およびそれに関係した椅子・テーブルの購入があり、12月は炭・薪などの燃料費の出費がかさんでいるため″その他″の金額が大きくなっているが、通常は20円程度だったと思われる。この表で分かるように、収入では戸賦金収入が予定額(5、60円)を常に下回り、10月以降は40円を切り減少傾向にある一方、支出では6割前後を占めていた人件費が、教員の増員などにより8月からは7割以上を占め増加の傾向にある。内澗学校の場合は魁文社からの寄付金200円が基礎資金としてあるのでまにあっているが、この寄付金がなければ、つまり授業料と戸賦金それに町会所の利子だけの収入でみると、高額な教材の購入や備品の修繕などの臨時の高額支出があると、それはそのまま赤字へつながり、学校の経営難は明らかであり、当然戸賦金増額の処置などがとられることになる。学校を経営することは、その学区にとっては大変な負担となったわけである。
また授業料の学校経費に占める割合は、内澗学校の場合は5パーセント前後と極わずかではあるが、それを払う親にとっては、授業料の支払いに加え戸賦金も課せられ負担は増加する。1戸当たりの戸賦金の額がはっきしないため実際どれだけの金額を納めていたかわからないが、この親の負担の重圧感は函館に限ったことではなかった。そのため全国各地では就学拒否や授業料未払いなども起こった。就学の義務を強いながら授業料は受益者負担という矛盾を含んだ学制は、これらのことも一端となって改正の道を歩むことになったのである。
表10-5 明治10年1年間における公立内澗学校出納表
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | ||
収 入 | 前月繰越金 戸 賦 金 第16大区1小区 〃 2 〃 3 〃 4 〃 5 第14大区4小区 町会所・魁文社出金 予備金利子収入 貸地料 魁文社寄付金 授 業 料 (月額12銭5厘) | 円 - 47.126 15.626 9.500 7.000 1.500 3.500 10.000 229.167 16.667 12.500 200.000 18.625 (149) | 円 205.773 47.155 15.655 9.500 7.000 1.500 3.500 10.000 29.167 16.667 12.500 - 18.625 (149) | 円 237.566 45.407 15.007 9.300 6.400 1.400 3.300 10.000 29.167 16.667 12.500 - 18.500 (148) | 円 246.097 44.462 14.988 9.300 5.900 1.400 3.300 9.574 29.167 16.667 12.500 - 18.375 (147) | 円 266.155 42.234 13.150 9.300 5.410 1.400 3.300 9.674 29.167 16.667 12.500 - 18.250 (146) | 円 273.903 43.129 14.000 9.300 5.410 1.400 3.300 9.719 29.167 16.66 12.500 - 18.375 (147) | 円 270.771 42.216 13.161 9.300 5.350 1.400 3.300 9.705 29.167 16.667 12.500 - 20.750 (166) | 円 270.751 42.355 13.350 9.300 5.350 1.400 3.300 9.655 29.167 16.667 12.500 - - - | 円 268.620 42.093 13.250 9.300 5.350 1.400 3.300 9.493 29.167 16.667 12.500 - 19.625 (157) | 円 284.308 39.717 13.135 8.700 5.150 1.000 3.300 8.432 29.167 16..667 12.500 - 19.625 (157) | … … … … … … … … … … … … … … … | 円 282.975 38.856 12.321 8.700 5.170 1.000 3.300 8.365 29.167 16.667 12.500 - 20.375 (163) |
小 計 | 294.918 | 300.72 | 330.64 | 338.101 | 355.806 | 364.574 | 362.904 | 342.273 | 359.505 | 372.817 | … | 371.373 | |
支 出 | 人 件 費 教員給料 宿直料 小使い3名給料 裁縫教員給料 定期試験褒賞買入代 そ の 他 | 48.320 33.000 1.820 13.500 - - 40.825 | 48.460 33.000 1.960 13.500 - - 14.694 | 50.170 33.000 2.170 15.000 - - 34.373 | 50.100 33.000 2.100 15.000 - - 21.846 | 50.170 33.000 2.170 15.000 - 10.280 21.453 | 50.100 33.000 2.100 15.000 - - 43.703 | 55.170 38.000 2.170 15.000 - 8.350 28.633 | 55.450 38.000 2.170 15.000 0.280 - 18.203 | 56.350 38.000 2.100 15.000 1.250 - 18.847 | 57.670 38.000 2.170 15.000 2.500 - 16.767 | … … … … … … … | 61.670 42.000 2.170 15.000 2.500 - 37.428 |
小 計 | 89.145 | 63.154 | 84.543 | 71.946 | 81.903 | 93.803 | 92.153 | 73.653 | 75.197 | 74.437 | … | 99.098 | |
残 高 | 205.773 | 237.566 | 246.097 | 266.155 | 273.903 | 270.771 | 270.751 | 268.62 | 284.308 | 298.38 | … | 272.275 |
明治10年「公立学校出納表」(北海道立文書館蔵)より作成
教員給料内訳:1~6月は月額9円1名・月額8円3名、7~10月は月額9円1名・月額8円3名・月額5円1名、12月は月額9円4名・月額6円1名
11月分は史料が欠けている
授業料の( )内は生徒数を表す