時化の予測

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  雁の腹雲三日ともてね(時化のもと)      【根崎、石崎
  月に近星風に雨                 【志海苔】
  星やたらに光れば風強くなる(星光れば風)  【志海苔(根崎)】
  ごめの高上がりやどいの高枕            【根崎】
  ヤマセのまえのうけなげ(凪)(気付けれ)   【根崎(志海苔)】
  雲行き早きは沖止め               【銭亀沢】
  向山の雲切り上がれば風降りる          【銭亀沢】
  大潮立ちは時化の前ぶれ             【銭亀沢】
  おやく欠ければその方より風吹く         【志海苔】
   *雁の腹雲…雁の腹に似た雲、うけなげ…無風状態、大潮立ち…異常な満潮
 
 風向の予測に加えて、時化るかどうかも、海に依存した生活を左右する。これら九例を見ても、空や山の雲、星のまたたき、かもめの飛び方、海の潮位から果ては月の暈まで、多彩な材料で時化を予測しようとした労苦が感じられる。
 「雁の腹雲」は、気象学的には巻積雲(いわゆる「うろこ雲」)と考えられる。この雲は、低気圧の接近に先だって現れ、天気が下り坂に向かうことを示す。このことわざは津軽海峡沿岸の各地にあるが、興味深いのは、九州の佐賀県に「雁腹三日もてず」(村田芳幸「九州・山口地方の天気ことわざ」『気象』一七巻の三、一九七三年)とほとんど同じ表現が残っていることである。
 空気が澄んでいて月や星が良く見え、通常よりまたたきが強い原因は、上空に風の強い層があって、気層の密度が不均一になっているためと考えられる。翌日の日中、気温が上がると対流現象が活発になり、上下の空気がかき混ぜられる結果、上空の強風が地上に降りてくるのである。
 「ごめ」に限らず、鳥が通常より高く舞い上がる時に強風が吹くということわざも全国的に広く伝えられている。
 大潮立ちについては、低気圧の大発達で潮位が通常より高くなることがあり、これに風の吹き寄せ効果や本来の潮位が重なると、高潮の心配が生じてくる。一方、月の暈の欠けた方向からの強風というのは説明が困難である。
 銭亀沢に残ることわざを通して、銭亀沢の生活と関連した気象特性を再確認することができる。天気予報が発達している現代でも、先人の古来からの経験には学ぶところが多いと言えよう。

『雁の腹雲』〈巻積雲〉平成8年8月21日撮影