天然昆布漁はその年の生育状況に合わせ、七月下旬あるいは八月上旬から始まり、十月中旬までおこなわれる。漁は毎日おこなわれるわけではなく、波浪、濁り、潮流などの海況や天日乾燥に向く晴天かを「旗持ち」と称する経験豊かな漁業者が見極め、その日ごとに漁の有無を決定する。出漁の合図は現在では防災無線で出漁三〇分前に知らせるが、伝統的には旗で合図した。方法は地域ごとに異なり、銭亀沢では紅白旗が上っていれば沖止めで、下げたとき出漁となる。盆前は午前五時から、盆過ぎは午前六時から五時間にわたり、自由競争で漁がおこなわれるが、船は出漁の合図とともに事前に見定めた漁場ヘ一斉に直行する。
昆布の価格では、岸寄りの岩礁に生育する「岸コンブ」が最も高く、漁期の最初に採られるが量は少ない。「岸コンブ」を採り尽くすとやや沖合の岩礁に生育する「中間コンブ」を採取する。これらはすべて長い棹の先に二本の螺旋状の鉄棒がついたネジリで採る。採り方にはカマでコンブ根を刈り取る方法もあるが、銭亀沢では生育密度が高くネジリの方が効率的である。採取は箱メガネで水中をのぞきながらおこなうが、濁りの多いときは深場の「中間コンブ」は採れない。また、採取時には磯船が潮流や風に流されるため、「トメト」が乗り組み、トモガイを漕いで船を止めた。この仕事は子供があたったが、現在はバッテリー式の小型船外機を一人で操作し漁獲する例が多い。
「岸コンブ」「中間コンブ」を採り尽くすと、沖合の「沖コンブ」を鉄カギを引き回して採る。水深二〇メートル以上の礫底や岩礁は水面から見通すことができないため、周囲の地形から「山立て」して漁場を探る。「沖コンブ」は藻体が大きく歩留まりもよいが、広い干場を要し価格も安いため小漁家では採らないことが多い。
採取したコンブは陸揚げし、その日のうちに砂利を敷き詰めた干場で天日乾燥し、一日で干し上げるのが普通である。干場に敷く小石や砂利はかつて近郊の海岸や河原から人力で運んだものであるが、近年では黒色の採石をトラックで運び、敷き詰める例が多い。これは黒色の石が太陽光線をよく吸収し、コンブの乾燥に優れているためと思われる。
天日乾燥中の雨と風は昆布の品質を低下させる大敵で、不運にも突然の風雨に見舞われると、シートかけや取り入れに追われる。強風はコンブを飛ばし乾燥むらや汚れを生じるので、風が吹き始めると太めのロープをコンブにのせ渡し、重しとする。乾燥中のコンブは「砂引き」と称し、砂礫がつかないよう数回移動させる。夕刻までに乾燥が不十分な場合には翌朝天日で干し上げるか、灯油乾燥機で補う。完全に乾燥したコンブは夕方納屋に取り入れる。
これを根元から九〇センチメートルに切ると「長切り昆布」として出荷できるが、人手の多い漁家では、伝統的な「本場折り昆布」に仕上げる。これは極めて手間のかかる処理で、その工程は一五段階以上ともいわれる。まず、天日乾燥したコンブを柔らかくするため一度夜露にさらして「湿す」。これを根元側からしわをのばしつつロール状に巻き一晩「重す」。巻を延ばしてからハサミなどで昆布の先端や両側の不良部分を切り落とす「ひれ切り」をおこなう。根元から五五センチメートル長に折り畳み、再び重す。さらに好天日を選んで二度天日干しをする。これを「一番日(いちばんひ)」「二番日(にばんひ)」と呼ぶ。最後に、押し切りで仕上げの「ひれ切り」をおこない、「本場折り昆布」の完成品とする。これらは等級別に選別され、「岸昆布」は八キログラム、「中間昆布」は一〇キログラム、「沖昆布」は一五キログラムごとに束ねて出荷する。
ところで、天然コンブ漁を営む漁家では、さまざまな方法で昆布を調理し、食べているものと予想していたが、食品の豊かな現在では、出荷の残り昆布をわずかに自家用とし、ほとんどはダシ昆布に使う程度であるという。