銭亀沢のコンブ養殖は昭和五十年代からおこなわれた。この方法はいわゆる促成コンブ養殖技術にもとづく。自然界ではコンブの種となる遊走子は秋冬に親コンブから放出され、着底、発芽してコンブが姿を見せるのは翌春である。促成技術の核心は人工照明と人工肥料の入った培養液の利用によってコンブの受精、発芽期間を半分以下の二か月に短縮できたところにある。九月に地先の沿岸で採取した「沖コンブ」から種を採り、十月末には稚コンブの付いた種糸を出荷できる。
銭亀沢では古川町の種苗センターで種糸を生産しており、コンブ養殖を営む漁家に供給販売される。養殖漁場は水深約三〇メートル程度の沖合いで、海底に投入した四トンのコンクリートブロックに長さ一二〇メートルのロープを張り、これを一〇個程度の浮玉で一定水深に保つ。種付けはロープの隙間に種糸を挟み込んでおこなう。種付間隔は三〇から五〇センチメートル程度で、一月以降コンブの成長を待って、小個体や変形個体を徐々に取り除き、最終的には一株五本以下に間引きする。間引きコンブは身が薄く柔らかいので煮物に向き、干して出荷する。また、種コンブは直射日光に弱いため、当初は三メートル以深に沈めるが、春以降のコンブは成長にともなって光を求めるので、浮玉ロープを縮め、養殖コンブを海面近くにまで浮上させる。浮上は通例数回にわたって徐々におこなうのが理想とされる。なお、浮上後はコンブが波浪で流失しやすくなるので、時化の直前にロープを沈めたり、コンブの根を一株ごと紐でロープに縛り補強する場合も多い。これらの手入れ作業は養殖ロープを船上に引き上げておこなうが、銭亀沢付近では潮流が速いので、潮流の弱い日と時間帯を見計らっておこなう。
なお、養殖施設のロープは毎年張り替えるが、使用する場所や施設数は組合によって定められており、現在は一漁家あたり一二〇メートルのロープ四本までの制限がある。
乾燥は天然コンブ同様、天日でもおこなうが、経営規模の大きい漁家では雨天でも毎日作業するため大型の灯油式乾燥施設をもつ。最近では輸入昆布や消費低迷の影響と思われる安値に加え、経費高騰で採算が思わしくなく、銭亀沢漁業協同組合の養殖漁家数は平成八年の四三軒から九年には三三軒に減少している。