銭亀沢地区に生息するウニ類はキタムラサキウニとエゾバフンウニの二種である。キタムラサキウニは「のな」と呼ばれ、エゾバフンウニは「がぜ」「がんぜ」と呼ばれる。キタムラサキウニはエゾバフンウニに比べて運動が活発で、コンブなどの大型海藻の群落にまで侵入し、大きな藻体にはい上がって食いあさり、しばしば「磯焼け」を引き起こす。一方、エゾバフンウニは流れ藻を主食にしているため、岩盤のくぼみや礫のすき間で海藻に隠れるよう集合している。
市販されるウニのむき身は卵巣や精巣であるが、商品としてはエゾバフンウニの方が上等であり、キタムラサキウニの約二割高である。しかし、最近は寿司だねにキタムラサキウニが好まれ、銭亀沢漁業協同組合では三、四センチメートル径のキタムラサキウニ種苗を奥尻島から購入し、年間二〇から三〇万個地撒き放流している。その事業が成功しつつあり、現在のウニ漁獲高のうち七割をキタムラサキウニが占める。道南ではエゾバフンウニ種苗を人工生産し放流している地域も多いが、銭亀沢漁業協同組合では現在取り組んでいない。その理由は、供給される種苗の生残率を高めるための中間育成施設に多大な人員と資本を要するうえ、銭亀沢ではエゾバフンウニの自然発生群がみられるためである。
ウニ類の増殖を妨げる要因としては、高速モーター船による密漁の影響も無視できない。平成七年に密漁監視レーダー施設が完成したが、密漁の実態はつかめていない。また、人工構造物の設置による漁場の消失も悪影響を与えていると思われる。好漁場となる岩礁に漁港や人工護岸が設置されたり、その間接的影響として沿岸流が変化し、岩礁が漂砂に埋没することもあるという。さらに、山林の荒廃などにより河川からの泥水がウニ漁場に流れ込み、特に天然のエゾバフンウニの弊死を招いていることが疑われている。銭亀沢近郊には亀田半島最大の流域面積をもつ汐泊川があり、最近では小雨によっても濁水が流れ込み、ウニの弊死が目立つようになったという。ウニ類の生育にとって自然環境そのものの変化より、密漁や人為的環境悪化が深刻な問題となりつつある。
ウニ漁の方法であるが、資源保護のため禁漁区と禁漁期が種類ごとに決められている。禁漁区はキタムラサキウニが三尋(約五・四メートル)以浅、エゾバフンウニは四尋(約七・二メートル)以浅で、いずれも沖合いの個体を天然産卵群として保護している。特にエゾバフンウニは年によって稚ウニの大量発生をみる。ウニ類の漁期は、キタムラサキウニでは例年十二月二十日からわずか二〇日間のみ、エゾバフンウニでは四月十日から六月末までの約八〇日間である。キタムラサキウニの漁期が短いのは、色が黒いうえに冬季で海藻も少なく、ウニの発見が容易ですぐに採り尽くされるからである。種苗放流事業に取り組んでいる事情から、乱獲は禁物なのであろう。漁獲方法も通常日本海一帯で使われる小型のタモ網は使わず、棹先に付いた鋏爪を紐で操作するハサミ漁具で「つかみ採り」する。この方法は、ウニ群集を一網打尽に採るタモ網漁法に比べ、大きなウニのみ選び採るので資源保護につながるようだ。
一方、エゾバフンウニの漁期は春であり、海藻が多くて視界は極めて悪い。ウニの発見は容易ではない。しかも、このウニは岩石の隙間や海藻に隠れる習性があるので、「ガゼ突き」と称するように、三本ヤスにはさんで漁獲する。これも一個ずつ選び採る方法であるが、規定サイズ以下の小個体はヤスにかからない。ヤスでウニを傷つけると商品価値が著しく低下するので、むやみな採り方も許されない。このようなウニ漁の方法は漁獲効率の追及よりも資源保護の思想が強く反映したものといえるであろう。