座産の頃は出産の後「足を伸ばすと乳が出なくなる」「横になると悪い血が降りなくなる」といわれて、五日間から一週間ほど産床(巣)に座ったままの姿勢で過ごした。産婦は産床の上に正座し、前にりんご箱などを置いてお膳代わりとし、夜はこれに寄り掛かって休んだ。箱の中には産婦や赤子の着替えやおしめなどが入っていた。両脇や背中の後にはかんな屑を入れた俵やカント袋を置いた。俵は米俵より小さめのもので隣近所や知人などと互いに貸し借りをしていた。産婦には丹前や掛け布団をかけ、身動きできないようにしていた。従ってその苦労は大変なもので、スアガリのときは足がしびれて両側から支えてもらってようやく立つことができたという。写真は、古川の松田さんの祖母が明治二十八年に松田さんの父を出産した時に使用した「お産の箱」である。
お産に必要なものを入れておく箱(松田トシ蔵)
大方は一週間でスアガリをして布団に休んだ。この時乾した大根の葉の煮汁を入れた湯で体を拭くとよいといわれていたが、助産婦が来てからはクレゾールで拭いたり洗ったりするようになった。産後一週間は、助産婦が赤子の産湯をつかわせに来てくれた。
産後の休養期間はその家の仕来たりやサントの体調によって一様ではないが、二一日(三週間)ほどで日常生活に戻ることが多かった。これを「床ばらい・床上げ」といって出産祝を兼ねて祝事をした。なかには一〇日ほどで水仕事をしたサントもいたという。特に
昆布採りの時期はゆっくり休んでもいられなかったようである。