昔話から学ぶ生活の知恵

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 昔話には人が生きていくための知恵が素朴な形で表わされている。同じ話型の話でも、地域の生活や文化の影響を受けて微妙に変化し、語り手によって違いが生じてくる。銭亀沢で語られている昔話は「銭亀沢独自の昔話」といえないにしても、その場その場の状況、たとえば聞き手の年齢、語り手と聞き手の信頼関係によってさまざまに変化している様相を知ることができる。
 昔話は生活の知恵を与える。最後に「ものを粗末にするな」と教訓が付けられる。銭亀沢地区の採話の中から古川の昔話を例示しよう。この話は「山寺の怪」(『通観』№85)に分類されている。頭注にモチーフを付して段落ごとの話と対応させた。話の内容から見ると、青森に伝わる昔話に比べて短絡化が目立ち、モチーフの脱落があり、話がやせ細っているようである。語り手によって、もっとも印象深かったことのみ憶えていて、話の筋を追うかたちとなっている(表4・6・2参照)。
 ①発端の違い 『通観』の青森篇では「山寺の怪」の主人公は旅僧か旅の侍であり、無住の化け物寺にるという場面から話が始まる。語り手による話ではこの場面が欠け、身近にいる村内の人(まてだ親方)であり、子どものしつけを担う親たちである。リズムのあるいい回しが挿入されている。リズムのあるいい回しは語って面白く聴いて楽しい。記憶も容易であったと思われる。
 ②中段の筋書 『通観』の昔話にはいろいろな筋のストーリーがあるが、語り手による話では全くモチーフが脱落している。
 ③結びのことば 物を粗末にしてはいけない、欲張ってはいけない、正直でなければいけない、といった人生の教訓として聴いていたのである。

表4・6・2 山寺の怪