桃太郎話

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 「桃太郎」は教科書や絵本にとりあげられた、日本の代表的な昔話の一つである。石崎の武井ちよみの語りをあげてみる。
 
 むがしあったど。婆様、川さ着物洗いにいったどよ。桃がドンブラコ、ドンブラコと川流れてきてよ。それを婆様拾って家さ持ってきたとよ。爺ちゃと二人で割ったけあ、中から大きい男の子出てきたての。寝て起きたっけぁ立派な男になってよ。「爺様、婆様。オラ鬼が島に鬼殺しに行くはんで、飯握ってけれ」といったとよ。婆様飯握って腰さ下げてやった。そして鬼ば殺してきたどよ。いっぱいお土産貰って、家さ帰ってきて爺様、婆様に銭こいっぱい儲けたとよ。とつばれんこ。(『通観』№109)
 
 「むがしこ、一つ、へかせる(聞かせる)はんでな」と語った「桃太郎」の話で、唯一結末句の残っていたものである。すでに述べたように結末句は青森県の南部は「どっとはれ」、津軽が「とつばれ」、下北は「どっとはれ」「とつばれ」が混在し、さらに「いっそくらした」などがある(佐々木達司「民俗編」『下北郡東通村史』平成八年)。語り手の武井ちよみは昭和十(一九三五)年生れで中津軽郡東目屋村の出身。その語りの身振りや言葉遣いが独特でほんとうのむかし語りの言葉であった。
 昔話は、伝説のようにその土地に根ざしたものでないので、地域の特色というのは明確に表れにくい。その中で、銭亀沢の昔話は青森県に伝わる昔話と話型が類似しており、東北的な性格をもっている。