恵山火山灰(テフラ)層序

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 研究史の項で述べたように、恵山地域ではすでに10枚以上の他火山起源の火山灰(以下、テフラと呼ぶ)が確認され、荒井(1998)により報告されてきた。荒井は恵山火口原を中心とした野外調査の結果、1996年までに報告のなかったテフラも恵山地域で確認できるのではないかと考えた。周知のごとく、恵山地域で他火山起源のテフラを含めたテフラ層序とテフラの編年を確立することは、テフロクロノロジー(火山灰編年学)の手法に基づく恵山火山の噴火史の確立に繋がるため重要である。荒井(1998)は、北海道駒ケ岳火山から恵山火山に至る国道278号線沿い(太平洋岸)と、函館市北部から恵山火山に至る亀田半島全域で完新世テフラの広域追跡調査を行った(図1.12、図1.13、14、15、16、17、18)。
 今回、荒井によりテフラの同定・対比のために、各試料から分離された火山ガラスの主成分分析が行われた。
 この火山ガラスの主成分化学組織は、テフラを噴出した火山の岩石学的性質やマグマ溜まりの液相の化学組成を反映しているため、組成の近似性を利用して噴出源である火山を特定するのに有効である。荒井の調査と分析が行われるまでは、駒ケ岳火山起源の各テフラが恵山地域に降灰しているかどうか、恵山起源とされてきたEs-a、Es-bの実態は何なのかについて統一した見解が示されていなかった。
 荒井(1998)による恵山起源、駒ケ岳起源、濁川起源および白頭山起源の火山ガラス主成分の分析結果、各々異なった組成範囲を示すことが明らかとなり、これらテフラの判別に有効であることを示した。そこで、荒井は広域的なテフラ追跡調査に、火山ガラスの主成分化学組成の分析結果を加味して対比を行った。その上で山田・近堂(1959)、勝井ほか(1983)などの記載結果および鏡下写真を再検討したところ、恵山起源と考えられていたEs-a(佐々木ほか、1970)はKo-dに、Es-b(佐々木ほか、1970)はB-Tm(白頭山−苫小牧火山灰)に、対比されることが明らかとなった。また、駒ケ岳周辺から恵山火口原にかけての、亀田半島東部および函館市北東部にかけての同半島西部において確認できるNg(濁川火山灰)以降のテフラは、下位よりNg、Ko-g、Ko-f、B-Tm、Ko-d、Ko-aである(図1.20)。なお、Ng以前のテフラについてはどの地域でも露出が悪く、噴出源と考えられる火山の周辺でも層序は確定していない。亀田半島東部(恵山周辺を含む)におけるNgの下位にはKo-h、Ko-iおよびZ−M(銭亀−女那川下降軽石)の3テフラが比較的多くの露頭で確認できる。しかし、テフラの堆積物の岩相や挟在する堆積物は一様でない。

図1.20 亀田半島における完新世テフラ層序(荒井,1998)
縦軸の年代単位:Kaは1,000年を示す

 

図1.29(1) 露頭位置図(荒井,1998原図)


図1.29(2) 亀田半島(太平洋岸)柱状図群(荒井,1998原図)


図1.29(3) 恵山火山地域柱状図群(荒井,1998原図)