火山災害に関する住民意識

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 恵山町と椴法華村にまたがって、活動余勢の盛んな活火山・恵山火山は、火山性微動や噴火などの火山活動が126年以上記録されていない。
 1874年(明治7年)の小噴火(水蒸気爆発?)については、もはや生き証人はいない。明治期以降恵山の火山活動に起因する災害は、この126年間発生していない。宇井(1997a)は最近、活火山としての判定は学術的な根拠に基づいて、将来噴火の可能性があれば全て取り上げ、その中で更にその活動度によってランクをつけてはどうかと提案している。この活動度のランクづけは、AからFまでの6段階に区別されるが、道南の有珠山・駒ヶ岳はBランクで、今後10数年以内に噴火する可能性が高い活火山である。(有珠山は2000年に噴火、駒ヶ岳は1996年〜小規模な水蒸気噴火が起きている)。恵山は、九州の雲仙岳、本州の富士山・鳥海山などと共にCランクで、今後100年以内に噴火する可能性がある活火山に入る。このように差し迫って火山噴火が予想されず緊急被害が想定されないことで、恵山町、椴法華村の防災対策はほとんど取られていなかった。しかし、恵山火山の中腹から山麓には両町村の集落があり、集中豪雨などを引き金にして泥流災害、崖くずれ災害など、火山地域特有の土地災害の歴史を持っている。
 このような現地の実状をふまえて、荒井・宇井(1997a、b)は火山災害時のスムースな情報伝達、避難を含め災害軽減のためには、まず地域社会の火山災害に対する意識、火山防災に対する意見を把握する必要があるとして、次のような住民意識調査を行った。この現地調査は1997年(平成9年)に3回に渡って実施された。荒井・宇井は、このような調査研究は、活動静穏期にあたる恵山火山地域でこそ必要だと考えた。この地域では現在、爆裂火口から1.5キロメートル圏内に集落があるほか、地形的影響のため有事の際には孤立する可能性が高い地区(恵山町柏野・恵山・御崎、椴法華村元村・恵山岬地区など)があるなど防災活動の早期実施が望まれる。なお、1997年3月には、この地域に恵山火山防災会議協議会が設置され、今後の火山防災への取り組みが期待される。今回の調査対象者は、恵山町・椴法華村で生活する中学・高校生と両町村の防災関係機関に所属する成人の合計370人とし、1997年1月・4月・7月の3回に分け、郵送委託調査の手法により実施された。主な設問項目を表3.3に、意識調査結果の例を図3.20に示した。なお、この調査と並行して火山情報の聞き方、火山噴火の前兆現象、火山用語やアンケート調書の設問項目の解説などが、両町村の広報紙に掲載された。その一部は図3.20に示したとおりである。

図3.20 「広報えさん」に掲載された火山防災情報(恵山町,1998)

 全設問30項目の内、ごく一部の調査結果を紹介するとつぎの通りである。まず、恵山が火山であることは知っていても、活火山がどういう山のことかは知られていなかった。実際に起こると思う災害を聞いた時にも、「火山噴火」を選択した回答者は30%に留まり、土石流や地震など発生頻度(実生活で)の高いものへの意識が高かった。しかし、90%近くが火山活動に関することを知っておきたいと回答しており、ほぼ同数が火山災害予測情報の公表に賛成している。なお、「ハザードマップ(火山災害予測図)に記載して欲しいこと」では、避難場所・被害が及ぶ範囲・対処の仕方・噴火時期などが上位を占めた。なかでも避難場所については周知度が低かった。なお、本地域では全戸に防災無線が設備されているが、「防災放送はどこでもよく聞こえる」という回答は47%に留まり、有事の際の情報伝達に不安な結果となった。このほか、設問項目以外にも様々な意見が寄せられ、調査に対する意識の高さが窺われた。
 荒井・宇井(1997a、b)は、第1回調査のむすびとして、火山防災への第一歩として、日常的な広報活動や防災勉強会の開催など、地域に根差した防災知識の普及や、自然災害に対する理解を促進する方法を、早急に考え実行に移す必要があること。この点で今回行ったような意識調査は、すぐにでも実施でき、様々な情報を仕入れ得るため、火山防災をを行う際には有効かつ必要な手法である、と述べている。今回は調査の焦点を火山防災に絞り、1990〜1995年の雲仙普賢岳、1996年の駒ヶ岳など最近の噴火に対する関心度を探るほか、「今後恵山が噴火することはあると思うか」「火山災害予測図を作るとしたら住民に公表すべきか、どういうことを書くべきか」といった火山防災問題を住民に問うという。そして、このことにより、住民レベルでの火山防災に対する意識の拡大を狙うほか、地域住民−地元自治体−火山研究者の間の意識格差を把握したい、と結んでいる。