(5)早期の遺跡から出土した動植物遺体

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動物  初期の遺跡からは、漁網の錘として使用されたと考えられている石錘が多量に発掘されている。したがって、当時は温暖化の進行によって徐々に海水面が高まりつつある海での漁網を使用した漁労活動が盛んに行われていたものと考えられる。また、石鏃や石槍などの尖頭器類が比較的多く出土するとともに骨製刺突具、銛頭も出土していることから、陸獣や海獣狩猟も盛んに行われていたと考えるべきであろう。
 
植物  函館市中野A遺跡からはオニグルミとキハダが、同B遺跡で発掘された住居跡の床面からは、砕かれたオニグルミの殻やキハダの果実・種子、ヤマブドウ、キイチゴ属、マタタビ属、ミズキ属、ブドウ属、ガマズミ属、ニワトコ属、ウルシ属の種子のほかに、ヒエ属(イヌビエ?)の頴果も出土している(吉崎・椿坂、1992、1996、吉崎、1998)。オニグルミの堅果に含まれる脂肪に富んだ子葉は貯蔵が可能で、保存食料として利用された可能性が強い。遺跡から出土しているその他の種子はいずれも果実の種子で、乾燥して保存できるキハダとヒエ属を除けば長期保存が難しいものである。今のところ渡島半島ではヒエ属以外には澱粉質に富んだ植物遺体は発見されていない。
 道央や道東の札幌市S253遺跡、帯広市八千代遺跡、豊頃町高木1遺跡、女満別町中央A遺跡からは砕かれたオニグルミの殻とともにミズナラの堅果が出土し、早期の古い時期からすでにドングリが食糧資源として利用されていた(山田、1993)。
 ドングリの子葉にはタンニンが含まれていて、タンニンを除去する前処理なしには食用しにくい堅果である。タンニン含有量が多い落葉性のミズナラ・カシワ・コナラのドングリからタンニンを除去するためには、加熱処理を繰り返す必要があり、土器に堅果皮を剥いたドングリと水を入れて煮沸する作業を、1日ないしは2日間繰り返さなければタンニンは除去されない。帯広市八千代遺跡では早期の初めにドングリが利用され、その後も道東や道央の遺跡でドングリが利用されていることから、縄文時代の初めには北海道でもドングリの堅果からタンニンを除去する処理技術が確立していたと考えられる。
 それにしても、いろいろな技術が本州から伝播してくる窓口であったはずの渡島半島の遺跡からドングリを利用した痕跡が発見されていないのは何故であろうか。イヌビエなどドングリ以外に澱粉質を摂取できる他の植物が利用されていたことをも含めて、今後検討していかなければならない課題が残されている。