当時の乗合自動車の様子を「函館バス二十年のあゆみ」の中からひろってみると次のように記されている。
思い出
藤野自動車が下海岸線のバス運行を開業したのは大正九年である。下海岸にはこれより一年前の大正八年、中宮亀吉という人が会社を設立して許可をとり、湯の川・戸井間の乗合自動車を開業したが、経営難に陥ったので当時乗合馬車を営んでいた私の父(藤野清次)がこれを譲り受け乗合自動車を開業したのである。私が十四歳の時であった。当時は乗合自動車は二台(一九一九年T型フォード一台、シボレー一台)で湯川・戸井間を一日二往復運行時間は天気の好い日と雨降りの日とで相当の相違があったが、約二時間三十分位であったと憶えている。運賃は戸井迄一円二十銭で乗合馬車と大いに競争したものである。当時の下海岸はイワシの大漁続きで景気も好く、お客もあったが道路が非常に悪く、大雨や長雨が続くとバスは運休したものである。然しその後下海岸自動車(株)の政治工作に依り北海道庁より停止命令が出され、昭和三年止むを得ず休止した。
(中宮の開業大正十年、藤野開業大正十一年、本文は藤野の記憶ちがいである。)
大正11年藤野自動車湯川・戸井間運行