(1)山岳地帯上部の植生

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 亀田山脈稜線上の袴腰岳(一、一〇八メートル)はその頂上付近に僅かながら高山植物の生育する高山帯の環境をもっている。
 中部山岳地帯を一応の標準とする日本の垂直分布でいうところの高山帯とは、森林限界線以高のハイマツを標識種とする地帯で、その山岳の個性によって若干の差異はあるものの、おおよそ二、五〇〇メートル以上の高地とされている。緯度が高くなるにつれて高山帯的環境は下降するのが普通で、北海道南西部の場合は中部山岳地帯の標準より八〇〇メートル前後を減じて考察するのが妥当とされているが、それにしても当地域にはそのような高山は存在しない。当地域より北に位置する羊蹄山(一、八九三メートル)、狩場山(一、五二〇メートル)さえその森林限界線はともに一、二〇〇メートルないし一、三〇〇メートル付近である。当地域の最高峰袴腰岳の高度では本来なら森林に被われるはずの地帯である。しかし、独立峰、岩場、火山地形などの環境は地形的、気象的、その他の条件によって低い山地でも森林の成立が阻まれることがある。そのような地帯に高山植物の生育が可能になるのであるが、袴腰岳をはじめ道南各地の高山植物生育地はその例である。
 袴腰岳頂上付近は北西から南東へ走る尾根筋に三つの岩峰が並び、北東に面する当町側は、部分的であるが矮生化したエゾノダケカンバ、ミヤマハンノキ、チシマザクラ、ミネカエデ、ホザキカエデなどがハイマツに混生して頂上の岩場近くまで叢生し、岩場周辺には個体数は必ずしも多くはないが、次ぎのような高山植物が約三〇種ほどみられる。
  アスヒカズラ、ネバリノギラン、ハクサンチドリ、ミツバオウレン、ミヤマオダマキ、イワベンケイ、イワキンバイ、ミヤマキンバイ、イワオトギリ、ハリブキ、チシマニンジン、ハクサンボウフウ、ゴゼンタチバナ、ヒメゴヨウイチゴ、ノウゴウイチゴ、オオタカネバラ、チシマフウロ、エゾイソツツジ、コケモモ、コメツツジ、コメバツガザクラ、イワツツジ、エゾオヤマリンドウ、ウコンウツギ、エゾトウヒレン、タカネノガリヤスなど。
 そのうち、ミヤマオダマキ、イワキンバイ、ミヤマキンバイ、チシマニンジン、コメバツガザクラなどは、同じく高山帯を持つ尾根続きの横津岳(一、一六七メートル)(七飯町)には分布していない。また、上記高山植物の若干種は袴腰岳に続く稜線および付近の高地、岩場、低木帯、あるいは沢頭にまで下降している現象もみられる。なお、袴腰岳頂上付近の高山帯は狭い地域であり、生育する高山植物の個体数も少ないので、多人数の侵入による踏圧には極めて弱い環境である。
 袴腰岳高山帯につづく東斜面や万畳敷上部をはじめ、標高ほぼ六~七〇〇メートル以高の稜線および山腹には亜高山帯の相観を呈する森林が広く展開していて、エゾノダケカンバ、ミヤマハンノキが優占し、それにナナカマド、チシマザクラ、ミネカエデ、ホザキカエデ、コシアブラなどが混生している。林床にはチシマザサの侵入が目立つ環境が多い。