明治一〇年二月、当時、七重勧業試験場所属の開拓使御用係渡辺章三が臼尻村における鱈肝油製造の試験開発を命じられた。補助員には同試験場生徒遊佐高開、同じく雇員三田巳蔵を同行させた。
渡辺章三ほか二名は、同月一〇日、鱈漁の盛んな砂原村、臼尻村へ出張して現地での肝油製造の実施試験にあたった。
しかし、秋鱈漁はすでに終わり、春鱈の漁期に入っていたので、現地の漁業者の意見では、この年の鱈漁は残りすくなく、鮮度のよい原料は難しいということであった。渡辺らは、肝油製造試験のための既設の建物を選び、現地石橋某に依頼していた労務者を採用するなど、まず必要な実地試験の準備をすすめた。二月一四日より三月一六日までの約一ヵ月に臼尻村で得た鱈肝油の製造高は四斗樽三挺余(あま)りと報告されている。
生鱈から肝臓を摘出して大釜で煎り、これを冷却させて脂肪分を凝固させ、溶解したうえ沈澱したものを濾化して脂肪分を選り抜く方法である。
御用係渡辺章三が開拓使民事課勧業係にあてた諸費の内訳は、
民事課 御用係
勧業係 渡邊 章三
一 鱈肝 弐斗樽一盃ニ付凡弐百計 此目方八貫七百四拾目 漁民ヨリ買上ケ 代價金拾八銭
一 薪 肝弐斗樽一盃製造入費 代價金四銭五厘 是ハ壱敷百拾本 代金壱圓五十銭
一 雇人 肝弐斗樽一盃代價金拾壱銭三厘六毛
是ハ一日壱人 代金弐拾五銭
一 塩 肝弐斗樽一盃製造用 代價金壱厘七毛
是ハ壱升ニ付代金三銭六厘
一 莚 肝弐斗樽一盃製造用 代價金三厘三毛
是ハ壱枚ニ付代金五銭五厘五毛
一 木綿 肝弐斗樽一盃製造用 代價金九厘
是ハ一反ニ付 代金六拾銭
一 肝油出来高 壱貫弐百目 内脂肪分ヲ濾取り 壱割ヲ減シ 壱貫〇八拾目出来ス。此ノ外弐升七合也。
但壱升ニ付 入費代價金拾三銭〇七毛ニ當ル。
右ハ諸器械等ハ除候。去ル二月十四日ヨリ臼尻村於テ 本月十六日迄ニ肝油製造相成候 上等品 脂肪分ヲ去ル者五拾九貫八百弐拾三匁 下等品拾六貫七百四拾目出来及候 肝油製造候節 生水油煎取リ 冷所置脂肪分ヲカタメ 溶解沈澱ナスヲ濾シ 脂肪分去リ故ニ日数掛リ候 三月十四日附之御用状 同月十八日午後八時三十分着仕、御支廳ニ出頭仕候節、上局ヨリ御達有之候處 肝油製造入費詳細御届 日限延引仕候ハ奉恐入候 此段御届申上候也。
十年三月二十一日