北方寒帯性西南暖帯性

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 浜松を中心にひろく付近一帯の植物分布をみると、赤石山脈には寒帯性ならびに亜寒帯性フロラ(植物相)が発達している。それに対して遠州灘沿岸は黒潮の影響を受け、種子植物では純暖帯性フロラである。このように浜松付近には北方寒帯性および西南暖帯性の両要素がみられるのである。またそれにともなって分布限界種もでてくる。例をシダ類にとってみると、西南暖帯性シダ植物は九州・四国・紀伊半島を北上し、伊豆にとまる種類が多く、それらの北限が静岡県になっている。天城山中大滝のナチシダや伊東市八幡野のリュウビンタイはいずれも北限自生地である。これに反して北方寒帯性および高山性の植物は西南日本の高山にまで分布する種類が多く、この地方を南限とする植物はほとんどみあたらない。
 以上は植物の分布を横のひろがりにおいて眺めたのであるが、その分布を縦に垂直的に、すなわち高度差によって生ずる分布状態をみるならば、高度六〇〇メートル以下の低位置に分布する植物は、おもに西南暖帯性要素のものであり、六〇〇~一三〇〇メートルの中位置に生育する植物は温帯性要素が卓越し、一三〇〇メートル以上の高位置に分布するものは、北方寒帯性および高山性要素の植物となっている。
 このようにして浜松地方の南部および海岸地帯には、黒松林・赤松林が発達し、所々に水湿地の植物がみられ、また常緑広葉樹林を代表する椎林・タブ林があり、タブ林は主として海岸付近に発達し、椎林はそれより内方に発達している。浜松北方の山地に入れば、杉・桧など針葉樹林の林相がひろがる。海抜一四〇〇メートル前後はブナ林となる。浜松を南から北へたどってゆくと、植物は帯状分布をなしているのであるが、東から西へ進んでも、ある種の植物には変化がみられる。富士川が種子植物分布の境界線となっている。