雲堤

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 またこの吹き抜けのルートに沿うて積雲の長堤が発達する。この雲堤は西端伊良湖岬の南方海上から東端伊豆大島の南方海上まで蜿蜒二〇〇キロにわたって断続している。浜松の南の空にこの雲堤が顕著に現われると、地上の西風もやがて強くなるのである。それはこの雲堤の出現が一五〇〇ないし二〇〇〇メートルあたりの上層の強い西風の吹き抜けを示すものであるから、やがてその影響が地上におよんでくるためと考えられる。沿岸の漁師たちは、この雲堤を「伊勢路が張る」といっておそれ、小船で出漁するのをさしひかえる。雲堤の成因について考えると、吹き抜けの気流は速度がいちじるしく大きく、かつ温度が低いから、温暖な海上の空気との間には気層の不安定による対流を生じやすく、したがって積雲が発達するのである。浜松地方においては、かような雲堤の出現は冬の到来を告げるものである。沿岸地方に初霜のおりるのもこの雲堤がはじめて現われた後のことである。

浜松城跡からみた遠州灘上空の雲堤