ところが、縄文時代初頭の文化の中には、細石刃器文化の伝統はまったく残っていないのである。無土器文化と縄文文化とは、文化的にはつながりのない異質のものなのであろうか。この重要な問題に関して、昭和三十三年(一九五八)ごろから、新しい事実が発見されるようになった。それは、縄文文化と無土器文化の間に、特殊な形の尖頭器を主体とする文化の存在することがわかったことである。そしてこの文化には、土器をともなう仲間があることも知られてきた。尖頭器にはいろいろな形態のものがあるが、大きくまとめて有舌尖頭器の文化と呼ばれている(芹沢長介「新潟県中林遺跡における有舌尖頭器の研究」『日本文化研究所研究報告』第2集)。