貝類の捕食が、上述したごとく食糧源としては不十分であったとすると、残るものは木の実を主とした植物性の食糧である。蜆塚遺跡では炭化したクルミの実がわずかに検出されただけであるが、岡山県の前池遺跡では、地面を掘り下げてドングリやトチの実をつめ込んだ貯蔵施設が発見されている(南方前池遺跡調査団「岡山県山陽町南方前池遺跡」『私たちの考古学』7)。また長野県藤内遺跡では住居跡から約五〇リットルのクリが発見されたという(藤森栄一編『井戸尻』)。ドングリ・クリ・トチ・シイ・クルミなどは、一度にたくさん採集されてしかも十分保存にも耐えるという点で、重要な食糧源と考えられるものである。木の実のほかにもたとえば、ヤマイモやユリの地下茎・アケビやノブドウの実などがある。このように腐朽しやすいために今日に残らなかったもので、重要な食糧源のあったことを忘れることはできない。