条痕文土器の分布

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 条痕文土器の分布は、愛知県から静岡・長野・山梨の各県から伊豆七島におよぶかなり広い地域に認められる。そして当然そこには、地域差と年代差が存在する。その中で前期弥生文化ととくに密接な関係を示すのが、水神平式土器であって大井川以西に分布している。前期弥生文化が、名古屋付近で停止しそれ以東へおよばなかった理由の一つとして、水稲の生育条件(気温・降水量・日照時間)をあげる人がいる。しかし第9表に示したように、気候条件としては、浜松付近は名古屋周辺よりもむしろ優れているし、静岡平野もこれに劣らないのであるから、弥生文化への転換が自然条件のみに規制されたのであれば、当然浜松付近も弥生文化化していたはずである。それが実際にはきわめて変容を受けた縄文文化の姿をとっていたのは、なお完全には弥生文化化できないような社会的な条件があったからに違いない。
 
(表)第9表 気候条件(1931~1960の平均値)
場所7月8月9月全年
気温(℃)大阪26.627.823.715.5
名古屋25.726.622.714.4
浜松24.925.922.915.1
飯田23.524.120.111.9
静岡25.126.223.315.6
降水量(㎜)大阪176.9118.3170.91359.0
名古屋178.4155.4211.91546.3
浜松204.4202.4279.21933.3
飯田215.6154.2200.21623.8
静岡232.1214.7262.42425.5
日照時間(h)大阪212.9241.4175.12151.4
名古屋202.0237.2166.12269.7
浜松205.3249.2172.52339.0
飯田197.8224.7158.02211.2
静岡173.9212.7151.52137.7