櫛描文土器 東日本の弥生文化

156 ~ 156 / 706ページ
この地域の中期弥生文化は、櫛描文土器によって特徴づけられる。櫛描文というのは、櫛の歯でひいたような文様(平行文・波文・扇形文など)で、主として壺形土器の頸部や肩部を飾っている。櫛描文土器の発現地は瀬戸内沿岸か大阪湾沿岸のいずれかの地域とみられているが、発現後まもなく櫛描文は山陰・北陸・東海の各地へ拡散し、広く櫛描文土器の分布圏を形成した。そしてこの地域の弥生文化は、伊勢湾以東の弥生文化の成立に関してきわめて重要な役割を演じたようである。東日本の弥生式土器は縄文式土器の強い伝統をひいて縄文を施す弥生式土器という姿をとったが、しだいにその文様の中に櫛描文の手法が取り入れられて行くのである。つまり、伊勢湾以西の既成の文化の存在は無視できようはずはないのであって、たえずその影響をほとんど一方的に受けながら、東日本の弥生文化は生長せざるを得なかったともいえよう。