輸租帳の伝来

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 この輸租帳というのは、遠江国司が、管下の浜名郡での天平十二年の田租の収納状況を中央に報告した書類であるが、正倉院には、このほかに諸国の戸籍・計帳だとか、財政報告書である正税帳だとかいう類の諸国から出された文書類がいろいろ残されていて、奈良時代の地方の状況を伝える貴重な史料となっていることは有名である。それではこのような文書が、なぜ正倉院に残っているのかというと、奈良時代には国家仏教が盛んで、東大寺でも官営の写経所で大量の写経が行なわれ、功徳を積んだのであるが、当時、紙は貴重なものでぜい沢には使えなかったから、写経所の事務用紙としては、用ずみの書類を官から払い下げて、裏の空白の部分を使用した。戸籍や正税帳・輸租帳なども、こうして廃棄されたものを写経所で適宜切断して事務用紙として使用したために、一括して正倉院に納められて今日に伝わったのであって、輪租帳もその裏には写経師に支給する手当を記した天平二十年(七四八)の文書などが記されている。