書類の作為

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 ただし、このようないわゆるお役所の書類が、必ずしも事実ばかりを記しているわけではなく、作為が加えられやすいことは古今同様で、この輸租帳にしても、細部の数字を検討するといかにも不自然で、計算を簡便にするために事実を無視して勘定だけあわせたのではないかと思われるふしがある。田の総数や、戸口の数などは大体実際に近いであろうが、個々の戸の損害の内訳などのこまかな数字になると、どうもそのまま信用することはむずかしく、全体の徴収量をもとに、勘定があうようにうまく作りあげたのではないだろうかと言われている(虎尾俊哉『班田収授法の研究』)。しかし、ともかくこの輸租帳の存在によって、奈良時代の浜名湖岸の状況や、住民の具体的な氏名、郷戸や房戸の問題などをうかがうことができるのはじつに幸いであり、貴重な史料といわなければならない。