ところで、栗原駅に関しては、もう一つ、かなり有力な手がかりがある。それは『遠江浜名淡海図』と称する一文が存し、その中にこの駅がみえていることである。この史料は、図という名がついているが、今日に伝わるものは図ではなく、もと図につけられていたと思われる短篇の漢文で、空海作と称せられて 『弘法大師全集五』に収めてある。空海の作とは信じられないけれども、その文体や、内容から推して決してはなはだしく時代の下る新しいものではないとみられ、また、この文章は浜名湖の美観を華麗な字句を用いて綴っているが、そこにあらわれる地名やその関係位置は、非常に具体的でかつ正確であり、現地をよく心得た人の作であることが察せられる。