これらの歌に盛られた防人たちの切々の心情は、まことに人の心を打つものがある。遠江から遠く筑紫への旅は、当然月余の行程であろう。しかもその遠地に、少なくと三年の勤務を覚悟せねばならないし、中にはさらに長期間滞留する者や、九州に住みつく者もあったようである。彼らが妻を思い、父母を思う至情は、人情の古今変わらぬ尊さをしのばせるが、しかもこのような私情を乗り越えて、わが任を思い、職を貴しとしてつとめに励んだ上下幾多の人々の努力によって、世は支えられてきたことを、われわれは改めて考えなければなるまい。
防人の心情