鋳物師の作業場 歓喜天霊験記 部分(兵庫 武藤治太氏蔵)
【一宮鋳物師】遠江周智郡の一宮郷は、鋳物業の中心地である。その付近の森町の山田七郎左衛門は、徳川家康から鋳物師惣大工職を与えられているが、これは一宮鋳物師の後身であろう。
【頭陀寺鰐口】文永五年(一二六八)十月に敬意は頭陀寺町の頭陀寺に鰐口を寄進した。その銘文は「頭陀寺奉鋳金口一口大勧進僧敬意・文永五年辰戊十二月十五日寺家同心」とあり、『静岡県史料』には「此の文永五年の鰐口は撞座や銘に多少の議論もあるが、先ず本県に於ける最古のものとしておく」と註記してある。いま市の郷土博物館に保存され、市指定の文化財である。(次頁写真)
頭陀寺鰐口(浜松市立郷土博物館蔵)
【鴨江寺洪鐘】正応(しょうおう)三年(一二九〇)十月、勧進僧永威は、本市鴨江寺に洪鐘一口を鋳造して寄進した。明治二十一年(一八八八)三月には、現存したと同寺住職の報告書がある(『鴨江寺文書』)。
【長楽寺梵鐘】引佐郡気賀町の真言宗高野山派長楽寺には、嘉元三年(一三〇五)四月十日に鋳造した梵鐘があり、これは本県に残る最古の鐘として県指定文化財である(『細江のあゆみ』1号、『細江のあゆみ』資料編一)。大工は平正継と刻銘されているが、一宮郷の鋳物師であろうか。
すこし時代は下るが、遠江関係の中世の鋳物師(いもじ)の製品で、年代の明らかなものが、二点現存している(四一七ページ参照)。
(表)
鋳師 | 銘文摘要 | 作品 | 寄進先 | 年号 | 備考 |
西願 | 大工赤佐住道阿 | 鐘 | 遠州府中蓮光寺 | 貞治3(1364) | 国司土岐直氏らの勧進。永正2年(1505)浜松庄引馬の普済寺に到来。いまは沼津市上香貫霊山寺 |
藤原藤左衛門 | 大工一宮 | 同 | 遠江鎌田御厨阿弥陀堂 | 永享9(1437) | もと浜松市東照宮 |