貴族は有職故実(ゆうそくこじつ)の学問をさかんにした。さらに『万葉集』『古今集』『伊勢物語』『源氏物語』など、日本古典の研究につとめ、註釈書をあらわした。これらの研究は、東山時代(第四章参照)に結実するが、保守性が強く、いままでの研究の集大成や補遺という仕事が大部分で、独創性に乏しい。そこに中世和歌の基本的な性格と、限界があるけれども、それはやがて近世の古典研究復興の地盤になった。
【今川範国 今川了俊】今川了俊の父範国は、武家故実にくわしかった。了俊が九州の武士たちに故実を伝授し、将軍の儀式を執行して、故実家としての実力が認められていたのは、父の教えによる。その範国の和歌や兵法についての説は、儒教・宋学の人格主義の影響がみとめられる(川添昭二『今川了俊』)。また了俊は、万葉集を学んでいる。