手工業

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 【小売店舗】名主(みょうしゅ)で商人の仕事をかねるものが多く、手工業者で小売りをするものの多かったのが室町時代の特色である。市場商業は行商の活躍によったが、室町時代に京都・奈良などの大都市では、商業集落に定住して、小売店舗の棚(たな)や見世棚(みせだな)が多くなった。富裕な金持が有徳人(うとくにん)として出現する。室町時代に特徴的な社会現象である。京都などの都市では町衆(まちしゅう)という。

店舗 福富草紙 部分(京都 妙心寺春浦院蔵)

 【職人 醸造業 金属業】すでに手工業者は農民から分化しており、職人は手工業者だけをいうことになった。南北朝から室町時代になると、染織・鍛冶・鋳物・製紙などがいっそう発展し、醸造業がおこる。ことに中国貿易によって鍛冶・鋳物などの金属業が発展した。しかしそのころの砂鉄精錬の技術は、未熟のため錬鉄は輸入された。また絹織物の原料の生糸は中国産にくらべて劣っており、生糸は輸入されていた。
 
 【代金仕事】鎌倉時代の末からはじまった小規模な手工業者の独立、農業から賃仕事への分化という現象は、南北朝から室町時代になって、代金仕事に進んでくる。消費者から原料品をもらい、それに加工して賃金をえた賃仕事の形から、業者は注文だけでなく、市場をめあてに生産し、これを販売するようになった。代金仕事である。たとえば対外貿易の重要品目の一つの刀剣の生産に注文打(ちゅうもんうち)と数(かず)打があった。こうして代金仕事の業者はふえてくるが、生産形態の全体からみると、農民たちの家内仕事が支配的であった。