解題・説明
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福士幸次郎の詩集『展望』(新潮社、大正9(1920)年)のなかの一篇「哀憐」である。ただし、本資料と『展望』に収録されているものとの間には全体的な仮名遣いの異同があるのに加え、本資料で「その花のおもかげは黒い頭巾をかぶつた尼の影」・「灰色な霰がしづかに走り」とある部分が、『展望』では「その花の面影は/何時も黒い頭巾をかぶつた尼僧の影」・「灰色の霰がしづかに走り、」となっており、語句の異同もある。 『展望』に収録されている詩について福士は3部に大別している。詳述すると、「抒情詩主義(リリシズム)時代と現実主義時代との二段に変遷し来つた私の詩的閲歴の二期とすれば、最後のクラシックの調を帯び来つた現在は、その第三弾の変化たる古典主義時代とも称すべきもので、この詩集はすなわちこの私の作風上の変遷に応じて、三部に分けたもの」とするのである。詩篇「哀憐」はこのうち、第1部「抒情詩主義(リリシズム)時代」に分類されている。詩の末尾に「2 Ⅹ」とあり、「大正2(1913)年10月」につくられたものと推察できる。(村山龍)
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