系譜伝承のキーワード

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こうした安藤氏系図の古い部分は事実を伝えているわけではないが、しかしそうした特異な伝承をもっているということの意味、つまりそこに込められた系譜意識は、安藤氏の本質を示すものとして重要である。
 つまり、系図というものは、所詮は自家の顕彰のために作成されるものであるから、多かれ少なかれ、そこにはさまざまな作為がなされる。改めて強調するまでもないが、系図を歴史学的に利用する場合には、系図にどれだけ事実が書かれているかということよりは、むしろそうした作為がなされた理由を考えることが重要になる。
 これら安藤氏の系譜伝承についてのキーワードは、安日・高丸・安倍氏の三つである。これらはいずれも蝦夷の問題と密接にからみ、また蝦夷に連なるというその特異な出自は、ほかの豪族系譜には決してみられない特異なものである。
 こうした特異な、およそ常識的には自家の名誉とはならない人々を列挙した系譜を、意図的に創作したことの意味は、いったいなんであったのだろうか。