相馬貞三
西つ方
秀でたる山ありける
その山の彼方
海なりける
見よ、圓(まろ)き日
今金色に燃え、燦爛(さんらん)し沈みぬ
父祖の国土(くに)なり
これ、われ等が父祖の国土(くに)なりける
友あり
囁(ささや)き曰く
われ等が故郷(くに)興るべし
われ等が故郷(くに)興すべしと
父祖遊戯びてわれ等に近づきぬ
父祖われ等と倶(とも)にたわぶれぬ
すでにして我等が裡(うち)にあり
-我等為すべく立ちあがりぬ
見よ、朝の日上れば
この山越え
夕日射刺せば
この山燃ゆ
津軽の国土(くに)麗はし
海と野と空と
この山と、皆燃ゆ
とこしなへに皆燃ゆ
継ぐもの
胎(あ)れむもの-如何(いかん)か興らざらむ
(一九四一年八月十三日)
写真77 岩木橋と岩木山