弘前市の工業振興政策

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昭和二十七年(一九五二)、青森県は工業振興のために「青森県工場設置奨励条例」を制定し、中央資本の企業誘致を画策する。その後、青森市、八戸市が同様の条例を定め、三十年には弘前市においても「工場設置奨励条例」が制定された。
      弘前市工場設置奨励条例
   (この条例の目的)

第一条 この条例は、弘前市内における工場の新設及び拡充を促進し、もって産業の振興を図ることを目的とする。

   (定義)

第二条 この条例において「工場」とは、物品の製造または加工に使用する施設をいう。

   (奨励措置)

第三条 市長は、工場の新設または、拡充についてこの条例に基いて奨励措置を講ずる工場として指定した工場(以下「奨励適格工場」という。)の新設または拡充について操業開始の日の属する翌年度から三年間各年度の固定資産税に相当する額を限度として奨励金を交付することができる。

2 市長は、奨励適格工場に対して前項の奨励措置の外、工場の新設または拡充について必要な協力をするものとする。

   (申請及び指定)

第四条 工場の新設または拡充について奨励適格工場の指定を受けようとするものは、その旨市長に申請しなければならない。

2 市長は、前項の申請があつたときは、弘前市内に新たに設置しまたは拡充する工場で左の各号の一に該当し、市の産業振興上適当と認めたものについて奨励適格工場として指定する。

 一 工場の新設または工場の拡充の投下固定資産の額が弐千万円以上の工場であること。

 二 工場の新設で、常時使用する従業員の数が百人以上の工場であること。

   (指定の承継)

第五条 譲渡、相続その他の事由により奨励適格工場に異動を生じた場合においては、奨励適格工場としての権利はその事業の承継人が承継する。

   (指定の取消)

第六条 市長は、奨励適格工場が左の各号の一に該当するに至つたときは、その指定の取消をすることができる。

 一 事業を廃止または休止したとき、若しくは廃止または休止の状況にあると認めるとき。

 二 第四条第二項の条件を欠くに至つたとき。

   (細則)

第七条 この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。

        附則

   この条例は、公布の日から施行し昭和三十年一月一日より適用する。

(資料近・現代2No.三九七)

 この条例の内容が検討された市議会における議論では、第四条の奨励適格工場の条件である、①投下固定資産額二千万円以上、②従業員百人以上の工場は、本市では現在のところ一社しかなく、中小企業の保護、育成も検討する意味で、条件をもっと引き下げた方がよいのではないかとの意見を出した議員もいたが、市当局は、この条例は税収減につながるため、条例の制定自体自治庁は難色を示していること、また、他県の条件も同様であることを理由に、これ以上条件を下げることは考えていないと回答している。結局、本条例は地元企業の振興、育成ではなく、中央資本の誘致を目的として制定されたものであった。
 条例制定後、奨励適格工場の適用を受けた企業は、朝日シードル弘前ガス会社の二社のみであった。昭和三十三年になると、適用範囲を広げるための検討がなされ(『陸奥新報』昭和三十三年九月十七日付)、適用範囲は、①投下固定資産額一千万円以上、②従業員五〇人以上の工場へと広げられた。