いわゆる近代スポーツが日本に輸入され、さらに青森県内に定着するまでには、かなりの時間が必要であった。むろん、旧藩時代からの伝統を引き継いだ剣術、柔術、相撲などは近代スポーツと性格を異にしながら、現在まで連綿と続いてきたのは周知の事実である。しかし、明治維新という政治体制の大変革が近代スポーツにも、そしてまた、いわゆる〈伝統スポーツ〉にも多大な影響を与えたことはいうまでもない。
　その一つの典型的な例を前田光世（まえだみつよ）に見ることができる。後述するが、前田光世は当地・弘前市が生んだ草創期のスポーツ界のスーパースターであり、天才的な柔道家であった。現在、さまざまな〈異種格闘技〉が人気を集めているが、明治期に、しかも世界中を渡り歩いてその格闘技に挑んだのが前田光世なのである。これは特筆に値する。それだけの実績を残しているのである。それもやはり明治維新という変革がなければ実現不可能なことであったと思われる。