オックスフォード・ケンブリッジ両大学のコンバインドチーム来日は、オックスブリッジの招聘交渉が始まった1952(昭和27)年のプレシーズン時点で、すでに「1954(昭和34)年9月」と決まっていた(前項参照)。彼らの先輩たちが'52、'53年の日本遠征で披露してくれた個性的かつレベルの高いラグビーを、連合チームは日本との対戦でどのようにコーデイネートしてくるのか。単独チームとはまた違った魅力に引きつけられるが、不定期ながら両大学ラグビー部では秋の新学年度開講前となる夏季休暇を利用してコンバインドチームを編成して海外ツアーを楽しむという。
日本協会の調査によると、今回の日本遠征はコンバインドチームにとって通算6度目。過去の記録としては1948年のアルゼンチン遠征(12戦全勝)を初めとして、1950年南アフリカ(戦績不明)1955年カナダ&南カリフォルニア(10勝2敗)、1956年アルゼンチン、チリー、ウルグアイ(12勝1敗)、1957年東アフリカ&ローデシア(11勝1分け)の遠征が記録として残っているが、戦績不明の南アフリカはともかく、4度の海外ツアーで45勝3敗1分けという成績には驚かされる。もちろん対戦相手が不明なので、ただ数字だけをみて強弱を論ずるのは早計かもしれないが、少なくともアウエーでのこの成績を考えると、コンバインドチームといえども、各年度ともかなりのハイレベルだったということがうかがえる。
その点、今回の来日チームはどうだろう。現地からの連絡によると、遠征スコッドはセイロン(現スリランカ)、タイ、シンガポールを転戦して日本にやってくるというが、長旅、しかも熱帯地域を転戦したすえの来日というハンディはあるものの、それを補ってあまりあるのが、オックスフォード大学12人、ケンブリッジ大学13人の計25人のうち1人を除いて24人までがブルーであり、5カ国対抗経験者などインターナショナルが9人(FW3人、バックス6人)、トライアルマッチ出場の準インターナショナルも6人(FW2人、バックス4人)という強力な編成である。過去に来日したオックスブリッジの単独チーム以上の実カチームとみても、あながち間違いではないだろう。
やはりオックスフォード、ケンブリッジ両大学のコンバインドチームは、来日前に伝えられた通りの強カチームであった。日本では日本代表とのテストマッチ2試合を含めて7戦全勝。プレーイングマネジャーのA.J.ハーバートをして「…日本は勝てなかったからといって悲観することはない。我々は南アフリカのスプリングボックスやニュージーランドのオールブラックスと接戦する力をもっているのだから…」と云わしめるとなど、今回も日本代表は54-6(花園)、44-14(秩父宮)と、ともに大差での敗退だった。日本代表監督和田政雄は日本協会機関誌に「外観的には体力差が目だったが、目につかない基礎プレー、特にゲームの『読み』に優れ、走りながらボールの動きにつれてコースを変えるプレーと、ボールの動きを見て走り出すプレーには大きなへだたりがあった」(要旨)と日英の違いを指摘しているが、ひるがえって戦後初めてオックスフォード大学を迎えた7年前の1952(昭和27)年を思い出してみよう。日本代表とダークブルーとの対戦は、第1テストが0-35、第2テストは0-52だった。その日本代表が「スプリングボックス、オールブラックスと接戦をする」(ハーバート監督)オックスブリッジ大学連合から2試合で20得点を記録するまでになっている。追いつき、追い越すまでには時間がかかるとしても、前途に希望がないわけではない。
ただ、テストマッチ2試合では惨敗したが、監督兼任のハーバートも「7試合のうちでは早・慶・明の3大学とのゲームがおもしろかった」と認めるように、日本の大学ラグビーを代表する伝統校の健闘が光った。なかでも国立競技場でおこなわれた9月16日の全慶應義塾との試合は、戦後の日本ラグビーでは初めてというナイトゲームで行われたが、貴賓席には義宮さま、清宮さまはじめ、秩父宮妃、高松宮ご夫妻がそろってご観戦。後半にはいって全慶應義塾が追い上げる好ゲームとなったが、やはり逆転とまではいかず、結局コンバインドチームが24-17の7点差で勝った。日本ラグビー史によると「ラグビーのナイトゲームをはじめて見る興味と、オ・ケ大のプレーぶりを見ようとの興味が重なって、当夜は有料入場者13,485人の多数の観客をあつめた」とある。
なお、日本で行われたラグビーのナイトゲームは1933(昭和8)年9月9日に早稲田大学・戸塚球場での全早稲田ー関東OB戦が最初。したがってこの夜の全慶應義塾ーオックスブリッジ大学連合戦は2度目のナイトゲームとなる。
【オックスブリッジ大学連合・日本ツアー戦績】
①9月10日(瑞穂ラグビー場)
オックスブリッジ大学連合46-8関東・関西連合
②9月13日(秩父宮ラグビー場)
オックスブリッジ大学連合27-3全明治大学
③9月16日(国立競技場)※Ⅰ
オックスブリッジ大学連合24-17全慶應義塾大学
④9月20日(秩父宮ラグビー場)
オックスブリッジ大学連合32-11全早稲田大学
⑤9月24日(平和台競技場)
オックスブリッジ大学連合38-8九州代表
⑥9月27日(花園ラグビー場)
オックスブリッジ大学連合54-6日本代表(第1)
―10月1日(秩父宮ラグビー場)※Ⅱ
オックスフォード大学37-11ケンブリッジ大学
⑦10月4日(秩父宮ラグビー場)
オックスブリッジ大学連合44-14日本代表(第2)
※Ⅰ:戦後初のナイトゲーム(戦前、戦後を通しては2度目)
※Ⅱ:エキストラゲーム。両チームに13人の日本選手を組み入れて編成する