昭和60年(1985)1月6日 昭和59年(1984)度 第21回大学選手権決勝

国立競技場

同大 10-6 慶大

同大、薄氷を踏んで初の大学3連覇

昭和59年(1984)度 第21回大学選手権決勝
1985年1月6日 G:国立競技場 R:斉藤直樹 KO 14:00
同大 10 6 慶大
1 木村 敏隆(③広島工) 10 3 1 橋本 達矢(③慶応高)
2 森川 進豪(②伏見工) 0 3 2 五所 紳一(③慶応高)
3 馬場  新(④長崎南高) 3 中野 忠幸(②慶応高)
4 圓井  良(④同志社香里) 2 T 0 4 柴田 志通(①慶応高)
5 大八木 淳史(④伏見工) 1 G 0 5 中山  剛(④慶応志木高)
6 武藤 規夫(②延岡工) 0 PG 0 6 田代  博(④慶応高)
7 浦野 健介(③膳所高) 0 DG 0 7 玉塚 元一(④慶応高)
8 土田 雅人(④秋田工) 8 良塚 正剛(④慶応高)
9 児玉 耕樹(③高鍋高) 0 T 0 9 生田 久貴(③慶応高)
10 松尾 勝博(③延岡東高) 0 G 0 10 浅田 武男(④慶応高)
11 清水 剛志(③伏見工) 0 PG 2 11 市瀬 豊和(④慶応高)
C12 平尾 誠二(④伏見工) 0 DG 0 C12 松永 敏宏(④天王寺高)
13 福井 俊之(③同志社高) 13 林  千春(③慶応高)
14 赤山 秦規(③大分舞鶴高) 13 3 14 若林 俊康(②小石川高)
15 綾城 高志(②東山高) 15 村井 大次郎(④慶応高)

 後年“幻のトライ”と評されるプレーが慶大の逆転勝利を阻み、同大に史上初の3連覇をもたらした。素晴らしい決勝戦であり、劇的な同大の勝利であった。私も早大の監督として準決勝で同大と対戦したが、同大の強さは本物であり、いまでも同大の歴史ではこの年がベストチームだったと思っている。その同大をここまで追い詰めた慶大の戦い方も見事の一言であった。関東勢の盛り返しで大学選手権はますます盛り上がってきた。

 試合は同大が先手を取った。前半6分、ラインアウトからの右展開でSO松尾からパスを受けたCTB平尾がラインアウト後のモールサイドを縦に切り破ってトライ、赤山のゴールも決まって6−0と先制した。16分にはハイパントで攻め込んだモールからFL武藤が抜けてSH児玉がトライ、10−0と差を広げた。私はここから同大がリードを広げる展開になると予想したが、慶大は見事にこの予想を跳ね返した。25分、慶大は浅田がPGを決めて10−3でハーフタイム。

 後半も慶大が健闘を続ける。5分に再度浅田がPGを決めて10−6、1トライで同点というところまで追い詰める。27分には同大赤山がトライを決めたと思われた瞬間、慶大WTB若林が猛タックルでコーナーに押し倒した。

“幻のトライ”は後半36分に生まれた。スクラムから左に展開した慶大のサインプレー“飛ばし横”[SOが1CTBを飛ばして2CTBへパス、その横へFBがライン参加するプレー]が決まり、松永が抜けて村井へパス、ポスト左に同点トライ……。同大フィフティーンも「やられた!」と頭を抱えた瞬間、斉藤レフリーが“ピィー”と鋭く笛を吹き「スローフォワード」を宣告した。決勝ゴールが決まったかどうかは神のみぞ知ることだが[ゴールの正面なので成功したであろう]、慶大の夢が消え、同大が3連覇を達成した劇的な瞬間であった。その後長く語り継がれることになった“幻のトライ”は、ラグビーにおける「レフリー絶対」というアイデンティティを再認識した瞬間でもあった。

 ラグマガの優勝座談会で、同大の平尾が「あん時な、すぐスコアボードを見たら39分やったやろ、もうアカン、負けた思うたよ」と仲間と語り合っている。同誌では、慶大の松永主将も「やるだけやって燃え尽きました。これからも二度と、これほど燃えることはないでしょう。4年間で最高の試合を最後にできました」とさわやかに語り、彼のキャプテンシーも高く評価されていた。

 この試合は“幻のトライ”だけに終わらない名勝負として語り継がれるべきである。