テストNo.339 リポビタンDチャレンジ2017 第3戦 アイルランド代表戦

English 写真 機関誌
平成29年(2017)6月24日 G:味の素スタジアム R:JPドイル(ENG)
日本代表 13-35 アイルランド代表
No.578★339 リポビタンDチャレンジ2017 アイルランド代表第3回来日 第2戦 
2017年6月24日 G:味の素スタジアム R:JPドイル(ENG)
日本代表13-35アイルランド代表
1石原 慎太郎(サントリー)8281キアン・ヒーリー
2庭井 祐輔(キヤノン)572ジェイムズ・トレーシー
3浅原 拓真(東芝)3ジョン・ライアン
4トンプソン ルーク(近鉄)1T44キーラン・トレッドウェル
5ヘル ウヴェ(ヤマハ)0G45デビン・トナー
C6リーチ マイケル(東芝)1PG0C6リース・ラドック
7松橋 周平(リコー)0DG07ジョシュ・ファンデルフリーアー
8アマナキ・レレィ・マフィ(NTTコム)8ジャック・コナン
9流   大(サントリー)1T19キーラン・マーミオン
10小倉 順平(NTTコム)0G110パディー・ジャクソン
11福岡 堅樹(パナソニック)0PG011ジェイコブ・ストックデイル
12田村  優(キヤノン)0DG012ルーク・マーシャル
13松島 幸太朗(サントリー)13ギャリー・リングローズ
14山田 章仁(パナソニック)111014キース・アールズ
15野口 竜司(東海大)15アンドリュー・コンウエー
交代【日】堀江翔太(パナソニック)②、渡邉隆之(神鋼)③、松田力也(パナソニック)⑩、稲垣啓太(パナソニック)①、田中史朗(パナソニック)⑨、谷田部洸太郎(パナソニック)⑤、徳永祥尭(東芝)⑦、山中亮平(神鋼)⑮ 【ア】ニール・スカネル②、ジェームズ・ライアン④、ティルナン・オハロラン⑭、デイヴ・キルコイン①、アンドリュー・ポーター③、ショーン・ライデー⑦、ジョン・クーニー⑨、ローリー・スカネル⑬
得点:T松島、山田、PG小倉

 第2戦では急遽招集されたLOトンプソンルークを筆頭に気迫あふれるプレーで奮闘。勝利には届かなかったものの、最後まで戦う姿勢を押し出し続けたその戦いぶりは、この先の明るい未来を予感させた。
 先蹴。昔のラグビー用語だ。ジャパンが開始キックオフを右へ。先に蹴る意味の一つは「決意の表明だろう。」SOの小倉があえて低い弾道のキック、身長196㎝、アイルランドの大型ウイング、ジェイコブ・ストックデイルがつかみ、ライナー性の軌道でスペースに余裕があるから中央部めがけて走る。6番のゲーム主将、この午後に「ハーフセンチュリー(50キャップ)」達成のリーチ マイケルが外から追う。からみ、倒しにかかり、ここが大切なのだが、衝突の直後、ぐいっと半身分ほど押し戻した。前日の練習後の会見。リーチは言った。「50キャップまで9年の時間がかかりました。このタイミングでキャプテンの責任を持って(東芝の本拠地の府中に隣接する)ホームで戦えることに意味はあると思う」感傷的な口調だった。さらに心構えをこう述べた。「前回は相手の方が必死だった。必死さを見せたい」。ジョイミー・ジョセフHCはアイルランドの記者らに「明日、みなさんは(初戦とは)まったく違うジャパンを見ることになるでしょう」と語っている。リーチのキックオフは象徴だ。ジャパンは体を張った。
 13-35。後半は5-7。善戦と評しては、むしろ失礼だろう。負けは負けだ。ただ、前週の第1テストマッチと比べれば、攻防の鋭さとひたむきさは大きく改善された。ジョセフ体制のジャパンははっきりとしたスタイル(意図的にノータッチキックを多用して混沌を導く。外から内へ圧力をかけるNZ流のライン防御)を提示している。方針が揺るがないからこそ「いかに。いかなる気持ちで」は問われる。実践する選手、その集まりであるチームの「必死さ」がたちまち内容と結果に反映されるのだ。
 象徴となる重要人物がもうひとりいた。36歳のLO、トンプソン ルーク。2年前のW杯で代表を退くも「最初に選んだ5人が負傷」(ジョセフHC)というポジションの緊急事態に急ぎ呼ばれた。タックル。タックル。ボールの争奪。難儀な仕事を自称「おじいちゃん」は全身で引き受けた。
 開始2分30秒、スクラムの反則を得てアイルランドが速攻、ジャパンの4番は外の危険な空間を埋めようと素早く左へ開く。体重117㎏、右PRのジョン・ライアンがパスを受けた直後、若き日、ダブリンのブラックロック・カレッジで腕を磨いたトンプソンの重くて鋭利なタックルが決まった。お見事!ターンオーバー成就。絶好のカウンター攻撃の機会だ。なのに直後の悔やまれるパスミス、弾んだボールをひったくられて13番のギャリー・リングローズの独走トライを許した。トンプソンの驚異の奮闘がそれゆえに最初の失点を招いたのは皮肉、と書きたくもなるが、やはりアイルランドの実力だ。とっさのピンチにここまで前へ出ている。この時点で世界ランク3位の集団のそれが規律と鍛錬の証明である。「ミスをしない」。途中出場のHO堀江翔太は、最上位層ティア1の国の強さを簡潔に述べた。アイルランドは不確実なオフロードをほぼ封印、まさにミスを避けながら確実に得点する。わかっているのに止められない。そういうアタックだ。そこに穴をつく緻密な決め事がまざる。防御でもタックルの的をまず外さなかった。
 ジャパンは前半18分までに3-21と引き離された。スコアの観点では高温多湿がきがかりなアイルランドの「消耗の前に安全圏」というもくろみを許した。ただし追う側に「必死さ」があるので印象は引き締まっていた。同24分。ジャパンはラインアウトから左右へ展開、FL松橋周平、リーチ、NO8アマナキ・レレィ・マフィ、突破が終始通じたLOヘル ウヴェが力強さを発揮して、背番号13の松島幸太朗がインゴール右へ。後半22分の山田章仁のトライもそこまでの過程にこのたくましさと全体の速さは融合していた。
 リーチは6月のテストマッチのシリーズをこう総括した。「ルーマニア戦後の課題はプランをやり切ること。アイルランドの初戦はプランをやり切ったけれどメンタルが足りなかった。きょうはラグビーの原点であるフィジカリティー、ブレイクダウンのところ、よく戦ったと思う」
 プランをしょうかできているか、それが最良の方法なのかは議論されてよい。ただ、チームの構築には必ず、ひとつの戦い方に徹する段階が求められる。エディー・ジョーンズ体制でも「極度にキックせず」がときに批判も浴びつつ、最後は選手の意思もあって「ほどよく蹴る」に落ち着いた。貫くから変えられるのだ。
 アイルランドは試合終了のホーンが鳴ってもトライをもくろみスクラムからの波状攻撃を続けた。ジャパンはそれを止めた。心の勝負における小さな白星。案外、これから大きな意味を持つかもしれない。(ラグビーマガジン2017年9月号より抜粋)