[翻刻]

mi35

[目録]

 
     画像1
元禄甲戌冬十月祖翁世     画像2
を□したまひて幾星
霜を経れとも外か濱筑
紫のはて薪樵るをの子
小舟に櫂とる海士も
その風骨を慕ハさる
書なし爰に武江深川     画像3
は祖翁應栖の地に
していぬる年先哲等
長慶寺に仮墳を築し
より年々霊を慰め
しむ。今年百五十回
の遠忌にあたり翁か
無邊の大徳を詠せんと
さハ面かけは千とせの
□□に残り滴りは枝
葉になかれてハ表を
潤す天澤あけて言へく
もあらす此日四方の     画像4
風子集いて徹夜せん
と追薦の吟に脇を連
ねしまゝ四季の詠まて
そこはかとなく書加へ
梓にのせて深川淀集
と名つくる事とは
なりぬ
 弘化改元甲辰陽月
    多少庵鬼吉
       鬼吉
    霞翁書 印
かつらき山のふもとを     画像5
       過るに
よもの花はさかりに咲て
      みね/\ハ
霞わたれる空のけしき
いとなつかし     画像6
     かりけれは
       はせを
猶みたし花に明ゆく
     神の顔
古抱山宇に秘めおく処の真蹟を寫
    逮 夜(1)
年寄し(2)も出よ初しくれ鬼吉
木の葉集て打くへる曲突三千州
塩ものゝしほの利たる味もなし溪雨
又の便りの舟荷おくるゝ
北山の風か誘引て月清き
秋されにける萩に薄に
半過鳴子といへる□編て     画像7
今にちらほら斯波の家筋
指を折る被所銕漿の心あて
更衣して靡く(3)忌竹琴松
烏帽子魚また東雲の雲の下
からすの覗く馬の寝た跡
水菜蒔仕舞へは月も近うなり
(4)を曲ても身に入る項(5)
又□□軒の簾は夏の儘
干上る衣の蔟はね出す
尊としな雲なき花の流汲
佛の坐とて光り幾春
     各碑前に額つく
霜の芝盡せぬみちのしるへ哉かつしか素月
松風のあとはしくれとなりにけり百間徐柳
ひとしくれ通してあとの時雨哉カウ戸棠功
斯(カク)てこそ道(ミチ)のしをりそ枯尾花(カレヲハナ)     画像8江戸青阿
山茶花や一枝折て佛間入粕カへ巴曲
常磐木や蹲(ウヅクマ)る度ひとしくれ神戸喜並
今降(フル)と小鳥の鳴やかれ尾花クシ作り宇羅々
はせを忌にせめて手向ん松の露羽生一松
さわ/\の音や手向の枯尾花金鈴
はせを忌や流るゝ水の末長きカサ原志張
初しくれ旅笠のすゝひ洗ひけり清久岑松
古池に蛙の吃る小はるかな百間奇石
日のそこは寒し小春の暮のかね寿松
風流(リウ)のほねや残りてかれ柳雨蘭
しくるゝやおもへは寒し池の面大カ竹賀
木からしや墳(ツカ)にさしたる杜若(カキツバタ)クラ松琴松
枯はてし今もかをりて翁草(クサ)百間梅年
さひしさをわするなど降時雨哉クシ作り寿瓢
病(ヤス)む雁の聲かも霜に猶寒し江戸三千州
時雨るや膝(ヒザ)をかゝへてよもすから     画像9タカヤ鳳水
耳に入音皆さむき夜なりけりカサ原奇松
祖師堂の古ひぬかけや冬の月カノ室志水
言の葉のうへに置けりはつ時雨百間松右
笠ぬけは身にしむ墳(ツカ)の時雨哉ハシノス川風
四方へ香のよう届けり朝の梅クラ松桃園
海(ウナ)原の西日尊きしくれかな登戸梅峩
曲(マカ)らすに行やかれのゝ柳かけ就泉
今にすらその香は写り霜の菊江戸三千雄
濡(ぬ)るゝのも手向なりけり翁の日不動ヲカ咲草
井の水のぬるみを汲や霜の朝神戸言二
やみに出て月にもとるや寒念彿三河茶園
遊袋(ユウタイ)の中そ床しき花日記清地花松
その道(ミチ)をふみひろけたる枯野哉松溪
茶の園や千とせも醒(サメ)ぬ花の色百間紫山
(6)迯す手先まて来るしくれかな三河卓池
帰り咲(ザ)け百五十(モモイツ)とせのはなの数     画像10江戸溪雨
霜の菊しらぬむかしを見せにけり由誓
     法莚(7)に湊て(8)
一碗の茶に挙けりしくれの日紫山
衾にへたつ湖の風徐柳
常盤木を鳩も荒さす栖馴て(9)鬼吉
肩にそつきし朸(10)へな/\楽之
秤目もはつきり分る月明り素月
露にはしりのわろき冂口(11)奇石
新酒に雙六うちのむた歩行琴松
出る/\いへと舩の隙とる奇松
空癖のついて日和の定らす川風
床しき鳥を窓開て待鳳飛
約束をした時は来ぬ鰹賣梅峩
(12)の普請にさる真土もつ文民
(13)なる月の出て有桑の上言二
宮迂されし朝の眠たき     画像11松圃
青藁のむしろに蚤(14)のむくりこみ愛山
根木の臼の音のほく/\竹山
日受さへひとつふたつの花の笑棠功
佐保姫鷹(15)の遊ふ狩して梅年
御納戸の薩摩木綿もすされし雨蘭
郷へもとれは元の名になる清水
瑞籬(16)の石とかはるも夢の間に寿松
寒さわすれてうめの飛咲咲草
鰒仲間こゝろおち付あけの鐘志水
文珠四郎の淬き(17)覚ゆる就泉
巻暦手飼の乕(18)に汚されて松渓
後架も持ぬ海の世渡り鳳二
帯をする山に衣を脱し山分阿
月にしっとり直垂(19)の袖巴曲
へんてゐの踊あとなき法の徳淡月
茄子の畑は□してゆく秋     画像12松右
縄引の多い銚子の街道筋寿三
柱も板もそろふ〓目(20)梅交
憂事の蓙には染ぬ歌合蘿丈
よいうるほひの晴てしつけき吾楽
結ひ□瓠もありし花の下鳳儀
蚤の陀羅尼につゝく喋り寿松
     四季の〓
山茶花の日をかりてほす双帋(ソヲシ)かな江戸乙人
冬の田や飛ゝ(トビー)によき旭さすクシ作リ卜人
ひと霰過(アラレスコ)して雀群(ムレ)にけり□井悟道
呼るゝをしらすに通る頭巾かな上サキ豊逸
風音の枕はなれぬ千とり哉豊春
ひとさはり松に時雨の野末かな一寿
二度まても時雨て見えし畑の鶴(トリ)上會下鳳玉
はるの野や雨のきのふはむかしなる岩セ若彦
翌ありとおもふおろかや夕桜     画像13ツハキ鳳儀
飛蝶(トフチトヤウ)(ママ)に静なる日となりにけり乕山
さひのなき筑波は菊の日和哉ニカンノ松月
ぬく真似をしてすれ違ふ頭巾哉カサ原明石
こゝろミや先正月と筆初すさみ
今朝降た雨のかわきや小春凪(21)川田ヤ北山
日帰りのみちはかわらぬ野菊かな水フカ一舩
□そゝくほとは水あり苔の花ワシノ宮竹志
時雨ねはけふもはてぬか山の雲マナ板鳳能
けふの日は鐘も聞えぬしくれ哉明願寺文戯
日あたりて襟(エリ)祝ひなる帋衣(22)かな鯉尺
(23)なりに吹(フキ)込雪や戸のひつミ四友
下草のかわく間を斯胡蝶(コノコテフ)哉長宮殊山
草蓑(ミノ)に月の雫(しツく)やなく蛙如繍
ちりかゝるふくさにたゝむさくら哉川サキ照月
しつまりや花もこゝろも夜るのこと江戸仙路
気(キ)のなかいものゝかきりそひはの花     画像14江戸漁楽
とひ起(ヲキ)て聞や旅寝の鹿(シカ)の聲椿寿三
しくるゝやよしの枯葉のさわかしき淇水
野の末に塔(トヲ)の見えけり秋の月鳳二
十分に酒(サケ)も飲(ノミ)けりすゝみけり杉戸栗園
月もなく夕暮おそき紅葉かな槃柳
噺し来て別るゝ門の餘寒(24)一草
寒菊や日頃咲たる花の形(25)盛恵
わひしさや蚊遣りの跡の今朝の露竹宇
苔むした碑の傅(26)や閑子鳥奴佛
春もまた柳のいとの寒みかな英枝
来て見れは家も草木も時雨けり朶川
四方の春梅一色の匂ひかなフクロ千里
梅か香にはつみ過たる薄着哉カスカヘ松圃
咲初て翌(27)の床しきさくら哉如柳
暇乞して梅か香に彳みぬ(28)中ノ楽山
顔に火のもゆる思ひゃ鞴祭り(29)     画像15大場起笑
線(セン)香の匂ひゝろかるかすみ哉カスカヘ里屋
はら/\として明にけり蓮の雨巴雪
遠き世のかをり残りぬ梅の花曲江
いさゝかな雪を掃けり問屋前江雪
夕立や一村越て日の餘(アマ)り江鶴
松風は濡(ヌレ)て音なし夕時雨江月
伐(キリ)なから雫(しタし)ふるふやかきつはた呂風
うくひすの時を違(タガ)へぬ日さし哉雨丈
只の夜は火を焚(モ)しまの砧(キヌタ)かな寥雨
橋守の聟貰ふ夜や鳴かはつ竹塢
須广(30)明石千鳥斗りは月の隈謂南
日たまりのあれは虫鳴枯尾花淡月
晩鐘の時雨は夜へかゝりけり高スカ康年
大輪に勝らぬ菊のかをり哉大道文瓊
近よれは鴎も濡ぬ花の雨太郎彦
翌日もある花に夕への名残かな     画像16大場翫水
庭かりに隣へ行や夏の月春就
佐保姫(31)の霞織込ふもと哉百間愛山
武士(32)の記念なりけり鳥おとし竹山
蝙蝠(コウモリ)のかすつて行や二日月英山
一夜つゝ月も実入や稲の花鯉水
煤(スス)にもならす残りけり峯の雪清水
春雨や戸棚(トタナ)から出る料理草盛花
見るほとの花に屑(クス)なし朧月路丈
静さを糺(メーズ)の鳴や初時雨露竹女
はつ雪に恥(ハジ)る被(カツギ)のよこれかな徳力吾楽
徨(たゝズ)めは背中(セナカ)ぬくとし梅の花大桑山雅
啼雲雀(ヒバリ)見上て時(トキ)を知(しル)日哉梅賀
枯ながら風に聲持尾(ヲ)花かな登戸分阿
月入て木の間にくらき燈(トヲ)籠哉梅交
黄鳥(ウくひス)や水見る足の踏(ふミ)ちから梅竟
はなれ鵜(ウ)の潜(ク)りぬけたり花の雲     画像17てる女
白菊や雪なら枝のおほつかな蘿丈
木ふりにもかまはぬ梅の強さ哉大澤子朗
提(サケ)てよき蛤(ハマクリ)つとやうめの花竹萬
鳴(ナ)神の跡やしはらくなくかはつ琴嶺
沙汰なしに春の来て居る野梅哉貞佐
姫百合や峠(トヲゲ)手前の茶屋の畑亀洗
趣(ヲビ)は宵のうちなりおほろ月其洲
此風にうこきもやらす花の雲氷佳
蕣(アサカヲ)や垣根は夢(ユメ)の捨(ステ)ところ神扇楽之
戦(ツヨ)風は花にさはらぬす(ス)みれ哉百間松歌
秩(チゝ)父根はまた雪ありてはつ蛙柳二
二階(カイ)より高き隣や鹿(しカ)の聲フクロ馬六
清チ文彦
鳥の寄樹(キ)から暮行枯野哉累五
刈株(カリカ)をかそへて語(カタ)るしくれ哉
その夢(ユメ)の尾花に     画像18
       のこる枯野かな鬼吉
       丙午初夏     仙鳬書

 
 
1たいや 仏教で葬儀の前夜、忌日の前夜のこと
2こおろぎ
3なびく
4ひじ
5うなし
6いわし
7ほうえん 法要のこと
8あつまりて
9すみなれ
10おうこ てんびんぼうのこと
11けいこう 門扉のかんぬきのこと
12つつみ
13しずか
14のみ
15さほひめだか 春の雉狩りに用いる鷹
16みずがき
17みがき
18とら
19ひたたれ
20かんなめ
21こはるなぎ
22かみこ
23えだ
24よかん
25はなのなり
26いしぶみのふ
27あす
28たたずみぬ
29ふいごまつり
30須磨
31さほひめ 春をつかさどる神
32もののふ