[翻刻]

mi36

[目録]

 
     画像1
天保七丙申年     画像2
    歯固(1)の箸をとり上て
元日や木番のついたる膳まハり多少庵鬼吉
約束の菜汁といふや梅の宿おなしく
    組題徒然草の言葉 おもや さも有ぬへき 賑ひ     画像3
            いつしかも あなとふとや 遠きからい
            あからめもせす
掃初やおも屋のうちハ手くらかり言二
世もしつか(2)さもありぬへき玉の春可笑
はつからす其にきワひもよろこはし秀鹿
いつしかもはつ日の笑ミを盈しけり(3)文戯
あなとふとやのほるはつ日のゆへなりと助耕
輪かさりに遠きからいの届きけり笑草
あからめもせすに今年へむけし顔豊兆
 同 人にしられし さし出たらん 中にましりて     画像4
   覚束ならす 賤か なをおかしき すミたる
けふまてハ人にしられし福寿草栄松
日の岡にさし出たらんはつ日影志張
袴きる中にましりてはつ化粧左明
新参のおほつかならす屠蘇の酌和水
門松やみやこも賤か伏家にも青水
才蔵の尚おかしさや国言葉竹山
すみたつ空を告るや初からす梅年
 同 木の間の ふかき山 暁ちかく 心ふかう
   あるや 千里の外も いかにそや
朝拝や木の間はるかに鶴の聲八水
ふかき山も隣のありて御慶哉青瓜
かかへれハ暁ちかくはつや聲亀白
心ふかく拝三度けつ初日の出竹賀
梅等と並んてあるや福寿草和調
御降や千里の外も同しほと岑松
咲そめる日をいかにそや福寿草徐柳
  同 花ハさかり いさまし かの枝 見る物かハ     画像5
       あたなる 舞 月ハくまなく
 はつ春に心の花ハさかりかな守口
 元日や前の車のいさましき寿三
 かの枝もこの枝も梅の初日哉鳳二
 はつ空に見せる物かハ不二の山里風
 御小姓のあたなるよりや着そ初(4)斗白
 日の出より空の簾(5)や鶴の舞志水
 福藁にくまなき月の宮居哉川風
 同 おこりを とめるハ もろこし かしこき
    此頃 いてや しりそけ
 春たつや民も奢て米の飯雨蘭
 蓬莱や外にとめるハ小盃松山
 あなとふとこま(6)もろこし(7)も初日哉徐竹
 はつ日さす梅にかしこき叟哉柳二
 此ころの人ニハ見へす門礼者路丈
 袴きていてや三十路を花の春松溪
 騎初(8)に餘寒(9)退け諸手綱紫山
 同 おもしろく やさしく 立出れハ 此世に     画像6
    しワさも ねかハしかる ものなれ
なに見てもミなおもしろし今朝の春松長
三夫婦の優しき顔や屠蘇の酔吟松
目出たいと門立出れハはつ霞井蛙
此世にも天の岩戸やくら開(10)花松
ワか菜摘しワさも春の景色哉奇石
初夢にねかハしかるやはつ茄子(11)寿松
はつ春に寿(12)き物なれ福寿草桧甫
 同 やう/\ けしきたつ ほとこそ
    あれ 世ハ 人に  まかす
やう/\と旭をまつのかさりかな松月
元日やかハらぬ御代の門つゝき蘿丈
風のたつ日ハなかりけり三日の朝暁鳥
ゆたかさやほとこそよけれ屠蘇の酔龍泉
あれこれとゆうまに登しはつ日哉登鷹
若かへる世となりにけり花の春柏斉
人にやる接穂の梅や恵方棚語人
身の上ハ花に任せるはつ日かな青峨
  同 あな浦山し 目を悦ハし あらまほし     画像7
     たへすして 類なし 筆をとれハ かわる
 あなうら山し海原のはつ日の出斗牛
 老も目を悦はしけり福寿草風子
 斯くあらまほし元日の人心塘旭
 屠蘇吸つ猶悦ひにたへすして池塘
 寝心はまた類なしはつ小雨芦根
 今朝筆をとれハ開きつ福寿草一坡
 元日や矢立(13)にかわるさし扇星花
 遠山ハ斑に雪や若菜摘永嘉亭波憲
 梅咲や朝/\鳥のきて起す     画像8若小玉竹久
 梅見から道のつきけり哥こころノホリ戸松月
 狩きぬ(14)へ風をすへらす柳かな     画像9カサ原栄松
 行あたる人のやさしき華見かな和水
 鶴にのる工夫はなし歟春の山     画像10川ツラ左明
 小社も掃除のとして椿かなキ西八水
 摘からる若菜の中のワかなかな     画像11青瓜
 梅咲て入江ハ水となりにけり大サハ子朗
 桍着てひろふて居るや蕗の薹     画像12竹万
釣あけてほうり込たる蛙かな抱月
そこにある山もけふるや春の雨     画像13氷佳
日かさせハ蛙になりぬ草の種羽ニウ青圃
縄はりの人足霞む海手かな     画像14キヨク岑松
春雨や香煙しめて眠けさす大桒竹賀
大徳寺とりまへて居るすみれ哉     画像15キ西亀白
うくひすか篭鴬を古うせしフトウカ笑草
のとけしや小魚の濁す溜りみそ     画像16シヲン寺如琢
杖たけヲ調度伸けり梅の枝長ミヤ如繍
しふつたき眼(15)に愛相や庭さくら     画像17カモウ拍斉
網をすて手元へ垂るゝ柳かなツハキ鳳二
うつかりと深入したり春の山     画像18セイチ松渓
かた枝を月ヲ捧て花の兄スカ寿石
帰る雁名残ハ雨になりにけり     画像19カス虎〓
鴬に嚏(16)ハこ袖に包みけり春重
二ヘんめに鴬の顔見知かな     画像20ミツ又泰門
鴬ややぶは隣のものながら里風
一雨にはらりと芽張る柳かな     画像21〓遊
此ころの山は月夜とさくらかなキヨク周虹
人の気とともに伸たる春日かな     画像22ツハキ寿三
松の戸や錺の脇のかけ干菜宝シュ花斗牛
墨ふくみかねつ餘寒の筆の先     画像23塘旭
たてる茶の器に匂ひあり梅の花池塘
鮒うりのもて来てくれし薺かな     画像24芦根
おのが弾琴さへねむし春の雨一坡
やふかけや梅は見へねと楳かほる     画像25星花
気分よき隅田の堤や春の風スキ戸雲二
菜の花やとても咲くなら水の上     画像26行田守墨
   同
福寿草ひらいて咲か上手なり羽生見二
□あけてのきは明たつ雉子哉可石
   同
梅咲て水のうこきのはしまりぬワカ小玉寛之
   同
きれ凧や〓(17)名流して橋の下テコ林可笑
道聞の絶る日もなし梅の宿     画像27生水
ひと鍬の土に寝て居蛙かな明クワン寺助耕
やぶ入や隣の家の起た聲濱司
春の山涼むこゝろに移す哉クシツクリうらゝ
泡雪やとけ残りたる不二の山カラト少年  楚水
梅咲や一掉ふえし渡し舟亀並
冨士見ゆる里の人気や楳の花カサ原忘張
朝靄の〓口やうめの華カミヤ楓堂
しら魚や雲にうつりて夜のしらむカフノス和谷
春風や松に香のある清見寺ライ羽友之
うくひすの我もの顔や藪屋敷ミツ又仙造
山/\の曇を春の緑かなカス□□
若菜つむ賤か袂に霜白し松川
はつ夢や宝つくしの帆かけ船海笑
干海苔の簣(18)を離れけり春の風喜月
赤/\と松へ初日の昇りけり     画像28西ノ谷玉芝
松の花散や水なき車井戸
手紙にハ春を封して年の暮
盃に匂ひ汲けり庭の梅カノムロ志水
舞雲雀付鬢□て戻りけりシヲン寺仙里
ふき勿や遊ふ事にも草朴子(19)トクリキ吾楽
春の野やとの草摘も馬の頃カミ扇會頭楽糸
手に/\に桜もて来る禿(20)かなツハキ康年
家あたりはかり残して霞かな斗白
鴬にとわれて咲や藪の梅淇水
よしあしの名こそ見へされ春の草     画像29スキト連會頭素水
仙境もこや日くらしの弥生頃小〓
うたゝ寝を覚す胡蝶の羽風哉鋤月
鴬に呼かけられし朝寝かな英枝
ものの香や眼さめて蝶のニッ三ッ竹雨
春風やつい手拭の盲女も来る草鳥
梢から日の延て行く柳かな米子
海の面や静に春をうちはする松雨
雨の日は出無の正月こころかな會頭東䲧
ぬるむかと水かき迴す柳かなセイ地花松
   同
(21)に青みくつつく若菜かな中シマ連會頭井蛙
あかつきをつくる梺のつくしかな青水
玉川の〓葉の中やはつ蛙竹山
暖やよしのの奥はからふかき奇石
玉川のさらし染たつ霞哉喬山
菊の苗子枝孫枝分根かな     画像30カスカヘ連會頭蒼吾
春雨やおもく覚し夜の衣曲江
梅からや盛ならべたる柿作り里屋
家かけや無事な色なる赤椿寒雨
楳さくやすこしハ東風のあるもよし雨丈
鴬や手入のすみし槇の庭雨十
さく梅にちる梅あるやかけ日向巴雪
暖かくなりし庵やうめの花寿松
やさしくハ啼ない雉子の生哉柳交
舟湯出て柳とゝもに吹れけり如川
橋守の聟貰ふ夜やなく蛙     画像31竹塢
寛楽/\と(22)山ハ笑ふに不二白し渭南
佐保姫やおり/\絶る斧の音実岡風子
雨風の度に春めくやなきかなカモフ青峨
あら磯も静けき春の日かけかな語人
馬つなく木はなかりけり花の山ノホリト連蘿丈
石にも花の咲かゝる弥生哉暁烏
梅かかに朝寝の恵を覗かれし龍泉
常盤木の色に移るや春の山登鷹
   同
霞けり晴けり田子の浦小舟モンマ連會頭雨蘭
雨脚について出けりはつ蛙柳二
踏込て見れハ處は春の草寿松
摘草のうしろに咲し菫かな     画像32松山
鴬の一聲啼てあさ日和徐行
梅さくや蝶を見初る雨の翌路丈
みよし野ハまき葉のことし梅の花松長
暖に流れのますや春の水吟松
ちつとして居るハまれ也蝶二つ柳翠
遠藪も鼻の先也罧の華青山
野遊や拾ふてもとる鹿の角梅枝
鴬に嚏こらへて庵のぬし花交
大空や春の来ている庵の庭呉竹女
窓あけてつい転寝やおほろ月常女
うくひすやうえにとられし琴の曲連女
菜の花やきのふに遠き朝筑波松石
   春景   十二支
青柳のなかるゝ水に似たりけり香臨斉古行
鴬や葩(23)踏た素忽(24)ふり止水軒巴曲
万歳とまんさい通りすかへけり     画像33 蘿窗葛山
雲雀なくやしらけて残る月の上春暁庵裳切
春の日や何を見やうと好な事長短居言二
田の雁のゆくとしから二日ほと穂並庵豊兆
鴬やたまつて人をやり過し東暁庵紫山
おまけにや若菜ほとけハ古松葉霞月庵徐柳
たいらかな海や日永の汐くもり茂竹庵秀鹿
うくひすや耳峙(25)て鳥をきく翫月窓文戯
   東都春色
伽羅(26)の香を梅に添けり小鋸可立
鴬やつい水にさし盥の湯東水
帰る雁うめ霞むまて見送りつ二石
百姓の重へるなり菜種頃梅守
梅ちるやほして置たる鍋の尻桂女
鴬の外ハ聲なき築地かな溪雅
潔よし初荷車の〓(27)るおと松牡
柳見に小雨見にとて隅田川     画像34閖月
   同
日の伸を爺も知けり索の尺杦縞舎素月
降過てなかれやミけり春の雪秋香庵月貨
   同
かくれ家や蛙も聞てよいところ宝雪庵蘭山
   同
賣そめやとほしてわたす足袋のひも鳩来庵風谷
うくひすや花らしき朝の内魚楽
猫の恋(28)猿は飼れておろかなり梅夕
遠く見るものに長閑の居りけり蘭鯉
あつかいや雲雀舞日の灰たハら大澪
木々の香や磯のにほひや春の鐘其父
のどかなり松へ来る鳥戻る鳥雨谷
木すへから水汲みあける柳哉 庵裡和月
ここといふ花の符合にふた所     画像35六草庵よろつ
濱風は霞のうらかなりにけり木之
面彫の眼をえりかゝる日永哉麦丸
花明り冬木の闇にワかれけり雪湖子
洪水を防し杭もめてにけり瓢長
肝煎の馬をたつねる日水かな乙人
初草や空にかくれて雨の降る照桂
あらためてことしへ向ぬ都鳥米器
世のさまに似たり蕨の長み哉仙路
    同
しら魚の網にしみつゝ哀かな風篁庵鳳儀
知音の道々□る花見かな養老庵秀枝
杖ついゐて今朝はつ草と申けり裡左庵三千州
春風やみな当寺らしい塵の穴平福庵李水
    同
夢まてハ今かた来たり春の水無為庵〓五
    同
菜畠は常盤の色をゆき間哉     画像36如瓶庵守口
鳥の聲の日に/\高き二月かな月下庵川風
鴬やうらみ聞て枝うつり蘿月庵濱雨
鴬やけふ畳屋も来てくれた双鶴亭〓呂
ゆく先や出て来るよふな春の風佻仙堂静河
   同
うららかや蛸の〓たる海の上杦事梅年
御手洗へころかり込し手まり哉松圃
   歳暮題行年     画像37
行としの波に〓のかたからふね守口
ゆくとしの名残を酒に忘れけり寿三
行年を見に出る人や角田川鳳二
ゆくとしに酒のくるま座おしミけり斗白
むく鳥の群ゆくとしの浪間かな斗牛
ゆく年の入江に一帆ふた帆哉風子
行年や〆縊たるかねのかす塘旭
ゆくとしや餅搗おとのにし東池塘
行年をしらて過るや松の聲芦根
ゆくとしや塵は□ふすくさき一坡
行年の市に笑ひつ福の面星花
ゆくとしや足して事足山の家竹賀
行年や来て入り戻る福祷懸岑松
ゆくとしの行衛ハ豆かしらせけり松月
ゆく年や恵方を捜す暇もなし蘿丈
 行年の樽をまくらにワすれけり     画像38龍泉
 ゆくとしの旨ミ忘れぬ福茶哉登鷹
 ゆくとしの筆に氷はなかりけり暁烏
 行年のゆたかなりけり市の人拍斉
 ゆく年やまた来るとしの大仕懸語人
 世ハいろ/\としを追ふ人おしむ人青峨
 ゆくとしもおなし音なり水車川風
    同 おか見(29)     画像39
 松風の音にあやかる岡見哉ハ水
 おもしろき我か家の形も岡見哉青瓜
 鳶に物いふても見たるおか見哉亀白
 塞翁か馬とおもへとおかみかな栄松
 神/\の是もおしへか岡見より志張
 蓑背負た形におハるゝ岡見かな和水
 おかしさも嫁に泣れておか見かな左明
 まなこより足のつかなし岡見かな言二
 松はかりうえの濁しぬおか見哉可笑
 入相の跡から光るおかみかな秀鹿
 ゆくとしやおか見に□いるかをとなし文戯
来年ハ何もかもよき岡見かな助耕
松一木是も岡見の目あてかな笑草
伐守のつるもおか見の炊かな豊兆
   同 年仕舞
□□なくとつさり砕て年仕舞     画像40雨蘭
帋衣まて畳てとしを仕舞けり井蛙
としハもう餅を吹せて仕舞けり奇石
酒の直に手をうつ音や年仕舞仟山
親に身を任せて年のしまいかな青水
大船もとしの湊に仕舞かな柳二
とし仕舞して分別の春となり松圃
才蔵も旅の丁度やとし仕舞松山
沢山に雪もつもりて年仕舞寿松
春へ手をかけて登るや年の坂松渓
かた落つる松や師走の市戻り花松
とし仕舞財布の皺の伸にけり松長
箒目の八重にあたるや年しまい吟松
今宵から恵方おもふや年仕舞路丈
一かさね小袖□ふてとし仕まい徐竹
ひき満て茶臼に住れや年仕舞梅年
風流の種おろしけり年仕舞     画像41徐柳
雪降に枯色ハなし年仕舞紫山
鴬に燈し見せけりとしのうち多少庵

 
 
1はがため
2静か
3みたしけり
4きそはじめ 着衣始とも書き、江戸時代に正月になって、新衣を着始める儀式のこと
5すだれ
6高麗 現在の朝鮮半島のこと
7唐土 現在の中国大陸のこと
8新年にはじめて馬に乗る儀式
9よかん
10くらびらき 新年に吉日を選んで、その年はじめて蔵を開くことで、多くは一月十一日に行われた
11なすび
12めでた
13やたて 墨壺に筆を入れる筒のついたもので、主に旅先で書くために携行する
14かりぎぬ
15まなこ
16くさめ くしゃみ
17
18
19くさぼうこ
20かむろ
21したくつ
22からからと
23はなびら
24そこつ
25そばだてて
26きゃら
27きしる
28ねこのこい 早春猫にさかりのつくことをいい、春の猫も同じ意味
29おかみ 大晦日の夜に、蓑をさかさに着て岡に上り、自分の家の方を望んで来年の吉凶を占うこと