解題・説明
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【判型】大本1冊。 【作者】中屋休次郎作。道休書(ただし、末尾「今川状」は置散子書)。 【年代等】享保15年(1730)刊。[大阪]中屋休次郎(仲屋久次郎・休次郎)板。 【概要】分類「往来物(消息科・教訓科)」。「年頭祝儀状」以下11状の消息文例などを大字で認めた手本。参勤供奉拝命・参府御礼・出産祝いなど種々の例文を収める。このほか、女中祝儀の文の心得や新年挨拶状(女用文章)、や種々書法(絵馬などの書き方)について紹介する点も本書の特色である。さらに後半に収録する「今川状」は置散子筆で、内容は今川貞世が弟(首題に「愚息」と記すが誤り)の仲秋にあてた教訓で、「一、不知文道而、武道終不得勝利事」で始まる23カ条と後文から成る往来。文武両道を強調する室町初期を代表する武家家訓とされる。以下、無益の殺生の戒め、罪人の公正な裁き、領民に対する非道と己の奢侈の戒め、先祖の建造物保持、忠孝怠慢の戒め、公平な賞罰、臣下を見て己を慎むこと、他人の不幸を己の利としないこと、分限相応、賢臣・侫人の見極め、非道の富裕と正しい零落、遊楽と家職など、武人として弁えるべき条々を列挙し、後文でも文武両道を繰り返し強調し、上下や友人の善悪、また己の心の善悪の見極めなど武士の心得を諭す。なお、『今川状』には本文末尾を「応永19年(1412)」とする本と「永享元年(1429)」とする本の2種あるが、本書は後者である(従って本文末尾の「永享元年九月十六日」は置散子が揮毫した年月日ではない点に注意)。 【備考】本書は他に伝本のない貴重書。後半に『今川状』の全文を収録するが、置散子筆の『今川状』は延宝(1673~80)頃に単行本として刊行されている。作者・板元および刊行年代は『〈享保以後〉大阪出版書籍目録』による。(小泉吉永 記)
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